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第68話 ∥
(アルマside)
シリウス様に言い付けられたのは、街に行くディラント様の同行だった。
計画を立てる上でディラント様の意見を聞いた。
街の地図を広げ、事件が起きた場所をチェックしていく。
噂を集めるに当たって、聴き込みをするのは事件が起きた場所の周辺の店。
それを全部回るのは無理だから場所を絞って行くらしい。
今日行くのは障害事件が起きた場所周辺、街の南側だ。
他の場所はまた後日順番に回るとの事だ。
私の役割は、買い物をした際に店員に『最近この辺も物騒になりましたね』と一言言う役割らしい。
何故そんな事を聞くのかとディラント様に聞いたら、その一言で噂好きの人は大抵話してくれるとの事だ。
それが本当かどうか怪しいものだった。
そんな一言で情報が集まる訳がないと思っていた。
だが不思議な事に声を掛けた数人は、いとも簡単に噂話を聞かせてくれた。
「……驚きました。あんな一言で話してくれるとは思っていませんでした」
思わず、口から出てしまった。
私はハッとしてディラント様を見た。
しまった、これはディラント様が考えた事。
もしかして不快にさせてしまったか。
そう思ってディラント様を見ていると、ディラント様はニコッと笑う。
「話す事が好きな人は切っ掛けさえあれば話してくれますから」
切っ掛け。
それがあの言葉って事なのか。
「しかし、何故私なのですか?」
そう聞くと、ディラント様が首を傾げる。
「話す切っ掛けならディラント様でも良かったのでは?」
そう言うと、ディラント様がクスクスと笑った。
「子供の俺が事件の事を聞いたら変ですよ。大人の人が聞くから皆話してくれるんです」
そう言ってディラント様は笑った。
・・・・・・・・・・・
邸に戻ると、私はシリウス様の元に向かった。
「どうだ、何か収穫はあったか?」
シリウス様の執務室に入ると、早速そう聞かれる。
「色々話は聞けましたが、まだ一度目なので噂の域を越えません。今後数回に渡り聴き取りを行っていくそうです」
「……そうか」
そう言うと、シリウス様が執務室の扉に視線を向けた。
「ディーはどうした?」
「ディラント様はお疲れのようだったので、報告は明日にして部屋でお休み頂くように致しました」
「そうか」
シリウス様がふぅと息を吐く。
「……で、ディーはどうだった?」
そう言ってシリウス様がニッと笑う。
それはもう"主"としての表情では無かった。
どうやら今日はここまでのようだな。
ここからは"幼馴染み"としての時間らしい。
「ディラント様は末恐ろしいな。シリウスが親バカになるのも頷ける」
「私はそこまで親バカでは無いと思うぞ?」
そう言ってシリウスはムッとする。
「いや、お前は立派な親バカだよ」
その後はディラント様の話で盛り上がった。
「聞いた相手が盛り上がって話が終わらなくなりそうな時は、ディラント様が"普通の子供らしく"止めてくれた」
普段は行動も話し方も大人びているディラント様が、あの時は年相応な仕草と話し方で衝撃的だった。
「ディーの子供らしい姿か……それは是非私も見てみたいところだ」
少しからかうつもりで話した事だったが、シリウスがあまりにも真剣な表情で『どうやったら見れるか』と言うものだから、私は思わず吹き出してしまった。
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