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第71話 ∥

俺たちが噂の聴き取りを初めて1ヶ月くらいが経った。 その頃にはアランも動けるようになっていた。 でもまだ本調子では無いってことで、事務的な作業を中心にしていた。 「今日は北の方に行ってみましょう」 そうアルマさんに言うと、アルマさんが頷いた。 街の北側にはクラーク団の本拠地がある。 今まではそれとなく確信を避けて情報収集をしてきた。 情報収集を始めてから、北側はある程度情報が集まってからにしようと決めていた。 この1ヶ月の東側、西側、南側の聴き取りで決定的な情報は集まらなかった。 今回の北側で有力な情報があれば良し、無ければもう一つの計画を実行に移すことになる。 街の北側に着くと、早速聴き取りを開始する。 今回も買い物のついでを装ってアルマさんに聞いてもらっていた。 ふと、店の外が気になった。 チラッと見てみると、向かいの建物の影に数人、別の場所に数人の人影を発見した。 上手いこと人波に隠れてはいるけど、明らかに一般人とは雰囲気が違う。 ………上手く掛かったか。 俺はアルマさんの袖を引いて耳打ちをした。 「え、それはどういう…?」 俺はその質問には答えず、にっこり笑って見せた。 「よろしくお願いしますね」 俺には情報収集の他に狙いがあった。 明らかに貴族だろうと分かる格好なのもその狙いの為。 店を出て、それとなく人気の無いところに入ってみる。 その瞬間、数人の人に囲まれた。 貴族らしき人間が事件の事を聞いて回ってたら、当然目を付けられる。 俺はそれを狙っていた。 数人の人に囲まれると、アルマさんが俺を守るように前に立った。 建物の壁を背に、俺を守ってくれる。 「………何者ですか、貴殿方は?」 アルマさんが男たちにそう聞く。 男たちはそれには答えず、にやにやとするだけだった。 クラーク団の一員なのか、それともただの雇われなのか。 見た感じ、全員まだ10代くらいか。 そんな事を考えていると、男たちと目が合った。 「その子供、こちらに渡してもらおうか」 そう言って、男の一人がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。 その瞬間、アルマさんが俺を隠すように動いた。 「……素直に従うとでも?」 アルマさんが男たちに向かって言う。 「ならあんたを殺してそのガキを奪うまでだ」 そう言って男の一人がナイフをチラつかせた。 それを見た瞬間、体がざわついた。 「……駄目、アルマさん」 俺がアルマさんの服を掴むと、アルマさんも俺の手を掴んできた。 「大丈夫です。何も心配要りません」 そう言ってアルマさんが笑う。 多分、俺を安心させようとしてくれてる。 違うのに、これは俺が仕掛けた事。 俺のせいでアルマさんが傷付くのは嫌だ。 そう思って、俺はアルマさんの手をすり抜けた。

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