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第74話 ∥
(アランside)
怪我も大分良くなって、それでもまだ本調子じゃないってことであまり激しい動きは禁じられていた。
この日も旦那様と一緒に書類仕事をしていた。
夕方、仕事も一段落して今日はここまでと旦那様が言い出した時、扉の外からバタバタと足音が聞こえてきた。
俺と旦那様が顔を見合わせていると、アルマ様が部屋に飛び込んできた。
アルマ様は息を切らしていて、慌てた様子だった。
………いつもきちんとしているアルマ様があんなに慌てるなんて。
「シリウス、ディラント様が連れ去られた!」
入って来るなり、アルマ様がそう言う。
それを聞いて旦那様が勢い良く立ち上がる。
「それはどういう事だ!?」
アルマ様が旦那様に事の顛末を説明した。
聴き込みの最中、数人の男に襲われた。
アルマ様は気絶させられて、気が付いたらディラント様が居なくなっていたと言う。
「申し訳ない、私が着いていながら……」
そう言ってアルマ様が旦那様に頭を下げる。
旦那様は何も答えず、深刻な表情をしていた。
………お二人は何の話をしているんだ?
ディラント様が連れ去られた?それはどういう意味なんだ?
「……あの、ディラント様が連れ去られたって……?何でディラント様が連れ去られるんですか?」
恐る恐る聞くと、お二人共驚いた表情をした。
「……ディーから聞いていなかったのか?」
そう言う伯爵様に、俺は首を傾げた。
その後、お二人に今までの事を聞いた。
ディラント様が俺の変わりに事件の事を調べていること。
「………何で、ディラント様がそんな……」
「恐らく、ディラント様を連れ去ったのはクラーク団の一員かと」
そうアルマ様が言う。
そんなの、ディラント様が連れ去られたのは俺のせいじゃないか。俺がこんな怪我したから……
そう思って、俺は刺されてまだ微妙に痛む傷口に触れた。
「ディーが言っていた。アランは大切な家族だから、大切な人が傷付くのは嫌だって」
俺の考えていた事が分かったように、旦那様がそう言う。
「っ!?」
……なんでディラント様はそこまで。
いや、今はそんな事はどうでも良い。
今は一刻も早くディラント様を助けなければ。
そう思って、俺は部屋を出ようとした。
そんな俺をアルマ様が止めた。
「アラン、何処に行くつもりだ?」
「離してください。早くディラント様を助けなければ」
「落ち着きなさい。ディラント様が何処に居るのかも分からないのに行くつもりか?」
俺はその質問に答えられなかった。
それでもディラント様が危険な目に合っていると思うと、居ても立ってもいられなかった。
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