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第76話 ∥
(アランside)
ディラント様を助けに行こうとすると、旦那様にも止められた。
「アラン、落ち着きなさい。ディラントがどこに居るかも分からないだろう」
旦那様にそう言われて、俺は唇を噛んだ。
「ディラントが心配なのは分かる。でも焦っても何も解決しないよ」
そう言って俺の肩を掴む旦那様の手が震えていた。
そうだ、旦那様だってディラント様が心配で仕方ない筈だ。
本当なら真っ先に助けに行きたい筈だ。
「……申し訳ありません」
素直に謝ると、旦那様が俺の頭に手を置いた。
俺はそれに驚いて思わず旦那様を見ると、旦那様が笑顔を向ける。
俺はむずむずするような、何とも言えない感覚に襲われた。
「しかし、ディラントは何処に連れて行かれたんだ」
旦那様がそう呟く。
ディラント様が何処に居るのか分からなければ、助けようにも助けられない。
何か、手がかりでもあれば……
「アルマ、ディラントは何か言ってなかったかい?」
旦那様にそう言われて、アルマ様が考え出した。
「……そういえばディラント様が『N235』と言っていました」
「N235?何だいそれは?」
「…私にはさっぱり……アランに伝えてくれれば分かると」
そう言ってアルマ様も旦那様も俺を見た。
「アラン、どういう意味か分かるかい?」
「……N235…?」
俺は考えた。
『N235』、どういう意味だ?
俺には分かるって、ディラント様は何を……
しばらく考えて、俺はハッとした。
「すいません、地図をお借りします」
そう言って俺は旦那様の返事を待たずに棚の中にある街の地図を取り出した。
「何か分かったのかい?」
「『N235』、それは場所を示しています」
俺は地図を机の上に広げなから言う。
「裏の人間はアジトなんかの場所を他者に知らせる時に暗号的なものを使います。それは裏の人間が聞けば分かるように、その場所の方角の頭文字と区画番号を使います。区画番号は裏の人間の独自のものなので表社会の人には分かりません」
スラム街は言わば裏の人間の集まり。
そこで生活していた俺なら分かるとディラント様は考えたんだ。
俺は地図を確認する。『N235』、そこは街の北側の外れに位置する今は誰も住んでいない空き家を示していた。
「……ここです」
俺はディラント様が居るであろう場所を地図上に指した。
「ここは今は誰も住んでいない筈だが……」
「確証は無いですが、ディラント様の言った事を信じるならここで間違いないかと」
俺がそう言うと、旦那様は小さく頷いた。
「アルマ、治安部隊に連絡!すぐにここに向かう!」
旦那様がそう言うと、アルマ様が急いで部屋を出た。
「旦那様、私に先行する許可を下さい」
そう言うと、旦那様が一瞬驚いた表情を見せる。
「……分かった。ただし、くれぐれも気を付けて」
旦那様が少し考えた後、許可をくれた。
俺は旦那様にそう言われて頷くと、準備のために急いで部屋を出た。
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