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第79話 ∥

ラジールが『何が目的だ』と聞いてきた。 俺は『治安維持の為』と答えてみた。 当然、それは嘘。 俺に治安維持なんて大それた思いなんてない。 俺はただ大切な家族が傷付くのが嫌だっただけ。 クラーク団を野放しにしておけば、またアランが駆り出される。 そうすればまたアランが傷付くと思った。 クラーク団のリーダーであるラジールと対峙してる今がチャンスだ。 全ての悪事を止めようとは思わない。 俺にそこまでの力はない。 でも何とか人を傷付ける事だけでも止めさせられれば良い、そう思っていた。 話していくに連れて、ラジールが俺を警戒していることは分かってた。 多分、俺の反応が子供らしくないから。 その警戒は俺が『ラジール』の名前を出した途端、ピークに達した。 ラジールの名前はアランルートでは出てこない。 ついさっき思い出した。 ラジールはアランルートの隠しキャラだ。 ヒロインがアランルートでアランと結ばれなかった場合、ラジールと結ばれる。 確か拐われたヒロインがラジールと会って、アランが助けに来る間にラジールとくっついてしまうという、アランルートではある意味BAD ENDのエンディングだ。 『ラジール』という名前は、今までずっと偽名で過ごしていたラジールが結ばれたヒロインに自ら告げる。 ラジールを見たときに浮かんだ映像は、ラジールのスチルだったんだ。 『ラジール』という名前はその時初めて明かされる名前。 当然、今の時点で誰も知っている筈がない。 それを俺が知っている事で、ラジールは俺を危険と判断したみたいで、ラジールの仲間の一人が襲い掛かってきた。 俺は襲い掛かってきた男の手を避けると、そのまま腕を掴んで投げ飛ばした。 男が勢い良く床に倒れ込む。 俺は男が起き上がる前に、全体重を掛けて男の溝尾に拳を打ち込んだ。 その瞬間、男はうめき声を上げて気を失った。 ……まずは一人。 襲い掛かってくるのは想定内だ。 いくらディラントがひ弱でも、"俺"ならいくらでも対処出来る。 全体重で急所を攻撃すれば相手を無力化出来る。 そう思って、俺は小さく息を吐いた。

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