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第82話 ∥

「あなたが何を悩んでいるかは知りませんが、あまり時間が無いことだけ伝えておきます」 「……どういう意味だ?」 ラジールが怪訝そうに言う。 「俺はあなたたちに拐われる事を予測していました。だから連れにヒントを残しておいたんです」 「……は?」 「今頃は俺の家族と治安部隊がここに向かっていると思います」 そう言って俺はにっこりと笑って見せた。 ラジールはまだ意味が理解出来ていないようできょとんとしている。 「だから、早く決断してください」 俺は笑顔を絶やさずに言った。 「………はぁ!?」 漸く理解出来たようで、ラジールが声を上げる。 「お、おまっ!?さっき捕まえる気は無いって言ったじゃないか!?」 「言いましたね。でも俺は捕まるかどうかはあなた次第とも言いましたよ?」 「はぁ!?何だよそれ!?」 「このままちんたらと考えていたら、あなたたちは俺を誘拐した犯人として治安部隊に捕まります。だから『あなた次第』と言ったでしょう?」 「っ!?お前、それ完全に脅しじゃねーか!」 「そうですね。俺だって脅すつもりなんて無かったんですけど、あなたがあまりにもくだぐたと考えてるので……こちらとしてもあまり時間は掛けてられないんですよ」 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ (ラジールside) 『だから強行手段です』と言ってガキは笑う。 本当何なんだ、このガキは!? 「……お前、最初から俺たちを嵌める気だったのか?」 そう聞くと、ガキが首を傾げた。 「拐われるのは想定内と言いましたよね?何の準備もせずに拐われる訳無いじゃないですか」 「…………お前、性格悪いって言われないか?」 そう聞くと、ガキはにっこりと笑う。 「そんな事、一度も言われたこと無いですね」 「絶対嘘だろ!?」 俺がそう言うと、ガキはただ笑うだけだった。 本当、性格悪すぎだろ。 こいつを捕まえた時点で詰んでたんだ。 今さら足掻いても、悪足掻きにすらならない。 だったら従うしか選択肢が無いじゃないか。 そう思って、俺は大きくため息をついた。 「………分かったよ。お前の言い分を飲む」 「本当ですか!?良かった、聞いて貰えなかったらどうしようかと思いましたよ」 そう言って、ガキは嬉しそうにパンと手を叩く。 ……よく言う、そうなるように脅したくせに。 「もう良いだろう、俺たちはずらかるぞ」 そう言って俺は手下たちに撤収の指示を出した。 「あぁ、もう1つ」 手下たちと一緒にずらかろうとすると、ガキに呼び止められた。 「人を傷付けないとあなたからの言質は取りました。従って、もし俺の周りの人たちが傷付けられた場合、次は容赦しないので覚えておいてください」 そう言ってガキは笑う。 突き刺すような視線を向けて……… 俺はその瞳にゾクッとした。 ……本当、良い性格してやがる。 「………そうだお前、名前は?」 立ち去る間際、ガキに名前を聞く。 「名前?……ディラントです」 ………ディラント。 「覚えておく」

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