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第84話 ∥
(アランside)
扉を開けると、広い空間が広がっていた。
中に入ると部屋の中央に人影が見えた。
陽が落ちて、薄暗くなった部屋ではその人影が誰なのか分からない。
でもそんな事は問題では無かった。
見えなくても誰か分かる。
俺はその人影にそっと近付いた。
「……ディラント様」
その人の名前を呼ぶと、人影が反応する。
人影が近付いてくると、漸く顔が見えた。
「アランさん」
ディラント様は俺の名前を呼ぶと、嬉しそうに笑う。
…見つけた。
「………お怪我は?」
「大丈夫です。怪我はありません」
そう言って笑うディラント様を、俺は抱き締めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ディラントside)
ラジールたちが邸から出ていってしばらく、扉が開く音がした。
見るとアランが立っていた。
そろそろ来るだろうとは思っていたけど、実際にアランの顔を見て、俺はホッと息を吐いた。
自分で仕組んだ事ではあるけど、思いの外不安だったみたいだ。
アランに駆け寄ると怪我の有無を聞かれた。
怪我は無いと答えると、突然アランに抱き締められた。
突然の事で、俺も驚いた。
「ア、アランさん!?どうしたんですか?」
そう聞いても、アランから返事はない。
俺を抱き締めるアランの体が微かに震えていた。
「………良かった。……無事で良かった」
しばらくすると、アランがそう呟いた。
その声は震えていて、泣いているのかと思った。
……あぁ、かなり心配掛けちゃったんだな。
「心配掛けてしまって、ごめんなさい」
そう言って俺もアランの背中に手を回した。
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