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第85話 ∥
アランとしばらく待っていると、伯爵様が治安部隊を引き連れて到着した。
武装した騎士たちが邸の中に入ってくる。
数人が邸の中を確認して、残りの数人が俺たちの元に来た。
「ご無事ですか?」
そう言って寄ってくる騎士を、俺はアランの後ろに隠れて避けた。
その様子にアランが驚いていた。
無理もない、普段の俺なら騎士が来たからといってこんな反応はしてない。
でも今は"ただの"9歳の子供らしくした方が良いと思った。
アランの後ろに隠れる俺の前に騎士の一人がしゃがむ。
「大丈夫、もう怖がることはないよ」
そう言って騎士の一人が優しく微笑む。
それでも俺は頑なにアランの影に隠れていた。
誘拐されたばかりの子供が知らない人間に近寄られたら怖くて話せないのは普通の事。
騎士たちに余計な詮索はされたく無かった。
アランも何かを察してか、俺の行動を何も言わずに見守ってくれていた。
「君の父上も外で待っている。私たちと一緒にここを出よう」
騎士の人も俺を怖がらせないように優しい声で話しかけてくれる。
それでも俺は動かなかった。
「ディラント様、旦那様の所に行きましょう」
見かねたアランがそう言って俺の肩に手を置く。
俺はそれに小さく頷いた。
アランに寄り添われて邸から出る。
「ディー!」
外に出ると、待っていた伯爵様が駆け寄ってきた。
「…父様!」
俺は駆け寄ってきた伯爵様に勢い良く抱き付いた。
抱き付いた俺に伯爵様が驚いている。
それもその筈だ。普段、伯爵様に俺から抱き付くなんて事はしない。
「かなり怖い目に合ったようです。私たちにも怯えているようで…」
騎士の一人が伯爵様にそう説明する。
伯爵様がいまだにしがみついてる俺を見た。
「………そうですか」
騎士の話に頷く伯爵様は何か察したようで、その声は少し冷たく感じた。
伯爵様の指示でアランが俺を馬車に乗せる。
伯爵様はまだ治安部隊の人と話しているみたいだった。
しばらくすると話終えた伯爵様が戻ってきた。
「治安部隊の方にはまた後日話をする事になった」
馬車が走り始めてしばらく、伯爵様がそう言う。
「ディー」
伯爵様が俺をじっと見る。
「邸に戻ったら、ちゃんと話してくれるね?」
そう言う伯爵様に、俺は小さく頷いた。
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