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第86話 ∥
邸までは馬車で20分も掛からない距離。
ただ慣れない事をしたせいか、俺はその間に寝てしまった。
目が覚めるとベッドに寝かせられてて、起き上がろうとすると、体が動かなかった。
………あれ、俺どうしたんだろう。
体は動かないし、頭が上手く働かない。
そんな状況で考えていると、カチャと扉が開く音がした。
音の方を見ると、誰か立っている。
でも目がぼやけて上手く見えない。
「ディラント様」
……あ、この声、アランだ。
アランが来たと分かって、話そうとするけど声が出ない。
「大丈夫です。寝ててください」
そう言ってアランの優しい声が聞こえてくる。
頭に触れられる感触がして、頭を撫でられてるのが分かった。
………あ、これ何か気持ちいい。
アランに頭を撫でられていると気持ちよくて、俺の意識はまた沈んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(アランside)
邸に帰る馬車の中で、隣に座るディラント様が不意に凭れ掛かってきた。
見るとディラント様は眠ってしまっていた。
邸に着いて、眠ってしまったディラント様を部屋まで運ぶ。
………温かい。
俺は腕の中で眠るディラント様をそっと抱き締めた。
ベッドにディラント様を寝かせると、しばらく寝顔を眺めた。
ディラント様が寝てしまった事で、事情を聞くのは明日にすることになった。
残った雑務作業を終えて時計を見ると、既に深夜を指していた。
結構時間が掛かったな。
この時間ならもしかしたらディラント様が起きてるかもしれないな。
そう思って、俺はディラント様の眠る部屋に向かった。
そっと部屋の中を確認すると、シンと静寂が広がっている。
……起きてる気配がない。まだ寝てるみたいだな。
そう思って、俺は部屋を後にしようとした。
『…っ…』
部屋を出ようとすると、微かに声が聞こえた。
「……ディラント様?」
俺はディラント様が起きたのかと、ベッドに近付いた。
ベッドの中のディラント様を見ると荒い呼吸を繰り返していた。
「ディラント様!?」
荒い呼吸を繰り返すディラント様に触れると、熱い体温が伝わってきた。
俺は急いで旦那様の元に向かいディラント様の容態を伝えた。
その後に医師を呼ぶ。
しばらくすると医師がやって来て、ディラント様の診察を始めた。
「ディーの様子はどうだい?」
医師が帰ってしばらく、旦那様がディラント様の部屋に来た。
「疲れから来る発熱だそうです」
「…そうか」
そう言うと、旦那様はベッドの縁に腰かけてディラント様の頭を撫でた。
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