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第88話 ∥
(アランside)
ディラント様の話を聞いて、自ら危険に飛び込んでいったディラント様への怒りより驚きの方が勝(まさ)った。
俺でも事件を起こしてるのがクラーク団でボスの名前が『テオ』ということくらいしか分からなかった。
しかもそのボスの名前も偽名だったことを、ディラント様の話しで始めて知った。
ディラント様がどうやってボスの本名をしったのかは分からない。
でもそれがディラント様の実力。
……やっぱり俺は無能だな。
そう思うと、苦笑が漏れた。
そんな事を考えながら邸の中を歩いていると、気付いたらディラント様の部屋の前に来ていた。
俺はここに来て何をするつもりなんだろう。
でも何故か、ディラント様の顔が見たかった。
今日は旦那様たちとの話し合いでディラント様も疲れている筈。
もう寝てしまっているかもしれない。
一回だけ……一回だけノックして返事が無かったら諦めよう。
そう思って、俺はディラント様の部屋の扉を叩いた。
ノックしてしばらく、部屋の中から『はい?』とディラント様の声が聞こえてきた。
……起きてた。
「…あ、あの、アランです。少々お話、よろしいでしょうか」
ディラント様から返事があったことで思いの外動揺してるのか、言葉がたどたどしくなる。
『アランさん?ちょっと待ってください』
ディラント様がそう言うと、中からパタパタと足音が近付いてくる。
………さっきから心臓がおかしい。
さっきから苦しいくらいに心臓が脈打ってる。
何なんだろう、これは……
待っていると、カチャと扉が開いて中からディラント様が顔を出す。
「アランさん、どうしたんですか?」
「……いえ…あの……」
元々話す事なんて無かった。
顔が見たいと思って来てみたけど、実際にディラント様を前にすると、頭が真っ白になって言葉が出てこなかった。
「………何かありましたか?」
そう言ってディラント様が不意に俺の頬に触れた。
その瞬間、顔に熱が集まった。
俺は思わず、一歩退いてしまう。
「……アランさん?」
ディラント様が首を傾げる。
何か……何か言わなきゃ。
そう思うのに、焦りからか言葉が出てこなかった。
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