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第89話 ∥

伯爵様たちに事情に説明するのに緊張したのか、妙に疲れた。 そう思って、俺はベッドにうつ伏していた。 そんな時、扉がノックされた。 ……誰だろ。 そう思って返事をすると、ノックの主が『アラン』だと名乗った。 俺は慌てて扉を開けた。 アランが俺の部屋を訪ねてくるのは珍しい。 アランが来るときは、だいたい伯爵様が呼んでるか、何か用事がある時だ。 扉を開けると、俯き気味に待ってたアランがパッと顔を上げる。 「アランさん、どうしたんですか?」 そう聞くと、アランが狼狽え出した。 何か言おうとしてるみたいだけど、しどろもどろになる。 それに、何処と無く様子がおかしい。 「……何かありましたか?」 アランの沈んだ表情が気になった。 何か思い詰めた感じ。 表情が曇ってる事が気になってアランの頬に触れてみた。 その瞬間、アランが一歩退いて顔を背けられてしまった。 どうしたのかと聞いてみると、アランが目を泳がせる。 俺は小さく息を吐いた。 「アランさん、中に入ってください」 そう言って扉を開けてアランを部屋に招き入れる。 「…ぁ…いえ…私は……」 とアランが部屋に入ることを躊躇する。 「さっきリーナさんがお茶とお菓子を持ってきてくれたんです。一緒に食べましょ?」 「……しかし……」 「俺一人では食べきれないんです。一緒に食べてくれると助かるんですが……」 俺がそう言うと、アランは少し迷ってから『失礼します』と言って部屋に入ってきた。 その様子に俺はホッと息を吐いた。 一緒にお菓子を食べてほしいと言ったのはただの口実だけど、食べきれないのは本当だから嘘は吐いてない。 リーナさんがお茶とお菓子を持ってきた時シャロウネも一緒だったけど、俺の様子を見て早々に自分の部屋に戻ってしまった。 俺は大量に置かれたお菓子を前に、正直困ってた所だった。 俺はアランに座るように指示すると、ポットのお茶をカップにそそごうとした。 「ディラント様、私が!」 そう言ってアランが手を伸ばしてきた。 「大丈夫です。アランさんは座っててください」 「で、ですが……」 普段は落ち着いてるアランがオロオロしてる。 なんかちょっと可愛いかも。 そう思って、俺は思わず笑ってしまった。 「俺、こう見えてお茶淹れるの得意なんですよ……って言っても、今回はリーナさんが淹れてくれたものですけど」 そう言って笑ってみせると、アランにも笑顔が見えた。

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