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第92話 ∥
「ディラント様、お下がり下さい」
茂みからの物音に騎士が警戒する。
俺を後ろに隠し、剣に手を掛けた。
騎士は茂みに視線を集中させている。
俺もその後ろからチラッと茂みを見た。
茂みからまたカサカサと音がする。
騎士の警戒はピークに達していた。
しばらく様子を見ていると、茂みの方から微かに『ニャー』と聞こえた。
……あれ、この声。
俺は声に誘われるようにそっと茂みに近付いた。
「ディラント様、いけません」
そう言って騎士に止められる。
「大丈夫です」
俺は物音がした茂みを少しかき分けた。
そうすると、仔猫が踞っていた。
うわっ、可愛い!
俺は仔猫に手を伸ばしてみる。
すると仔猫は『シャー』と威嚇してきた。
ただ仔猫の『シャー』は迫力が無くて、可愛くて思わず笑ってしまった。
俺が抱きかかえると、観念したのか大人しく抱かせてくれた。
「ディラント様」
俺が仔猫にかまけていると、後ろから騎士の人の心配そうな声が聞こえてきた。
「仔猫が居たんです」
そう言って俺は抱えている仔猫を騎士に見せた。
仔猫を見せると、騎士の顔が緩んだ。
「まだ小さいですね、迷い込んだんでしょうか」
「そうかもしれません」
騎士の人とそんな会話をしていると、ふと視界の端に何か映った。
なんだと思って見てみて、俺は驚いた。
「すいません、この子お願いします!」
俺は仔猫を騎士に渡して、視界に映ったものの所に駆け寄った。
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