93 / 226

第92話 ∥

「ディラント様、お下がり下さい」 茂みからの物音に騎士が警戒する。 俺を後ろに隠し、剣に手を掛けた。 騎士は茂みに視線を集中させている。 俺もその後ろからチラッと茂みを見た。 茂みからまたカサカサと音がする。 騎士の警戒はピークに達していた。 しばらく様子を見ていると、茂みの方から微かに『ニャー』と聞こえた。 ……あれ、この声。 俺は声に誘われるようにそっと茂みに近付いた。 「ディラント様、いけません」 そう言って騎士に止められる。 「大丈夫です」 俺は物音がした茂みを少しかき分けた。 そうすると、仔猫が踞っていた。 うわっ、可愛い! 俺は仔猫に手を伸ばしてみる。 すると仔猫は『シャー』と威嚇してきた。 ただ仔猫の『シャー』は迫力が無くて、可愛くて思わず笑ってしまった。 俺が抱きかかえると、観念したのか大人しく抱かせてくれた。 「ディラント様」 俺が仔猫にかまけていると、後ろから騎士の人の心配そうな声が聞こえてきた。 「仔猫が居たんです」 そう言って俺は抱えている仔猫を騎士に見せた。 仔猫を見せると、騎士の顔が緩んだ。 「まだ小さいですね、迷い込んだんでしょうか」 「そうかもしれません」 騎士の人とそんな会話をしていると、ふと視界の端に何か映った。 なんだと思って見てみて、俺は驚いた。 「すいません、この子お願いします!」 俺は仔猫を騎士に渡して、視界に映ったものの所に駆け寄った。

ともだちにシェアしよう!