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第93話 ∥

仔猫を見つけた茂みのその奥に、人が倒れているのを見つけた。 倒れている人の顔を見て、俺は驚いた。 「ラジール!?」 え!?なんでラジールがこんなとこに倒れてるの!? 俺は今の状況に若干パニックになった。 ラジールはクラーク団のボスで、この間俺が話をつけた相手。 まぁ、そのせいで護衛をつけられる羽目になったんだけど…… そして『イノラバ』の攻略対象は一人。 ラジールとは、もう関わることはないと思ってたのに。 俺は混乱しながらもラジールに触れた。 口元に手を持っていって、呼吸を確認する。 次に首筋に触れて脈を計った。 その後、腕、脇腹、足の順に触っていき怪我が無いかを確認した。 脈も呼吸も正常だし、怪我もしてない。 俺はラジールがただ気を失ってるだけだと分かってホッと息を吐いた。 「ディラント様、その者を知っているんですか?」 そう騎士の人が聞いてくる。 正直、どう答えて良いのか迷った。 ラジールの事は、伯爵様とアルマさんとアランしか知らない。 でもラジールをこのままにしておく訳にもいかない。 「俺の知り合いです。すいませんが、彼を運ぶのを手伝ってもらっても良いですか?」 俺は考えた末、知り合いだという事にした。 騎士に俺の部屋までラジールを運んで貰う。 騎士はラジールを軽々と抱えた。 代わりに俺は仔猫を抱えていた。 俺は思わず、ラジールと仔猫を見比べて、ラジールを軽々と運ぶ騎士がちょっと羨ましいと思ってしまった。 部屋まで来ると、ラジールをベッドに寝かせて貰う。 「すいませんが父様を呼んできて貰えないですか?」 そう聞くと、騎士の人が少し難しい顔をする。 「……しかし、その者と二人きりにするわけには」 『ディラント様に何かあっては』と騎士は言う。 「大丈夫です。しばらくは目を覚まさないと思いますし、彼は人を傷付けるような人ではないので」 ……多分。 俺が笑顔でそう言うと、騎士は頷いて渋々部屋を出ていった。

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