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第98話 ∥
「それ以上動かすと手首が傷付きますよ」
そう言って手を振るラジールを止めた。
そうすると、ラジールが嬉しそうに笑った。
「ディラント様、危険です離れてください」
そう言ってアランに抱えられて引き離された。
その瞬間、ラジールがシュンとするのが分かった。
……あれ?
なんか、ラジールの雰囲気が違う?
「アランさん、大丈夫です」
俺は抱えてるアランの手をポンと叩く。
アランは渋々離してくれた。
「ここへは彼と話をするために来ています。ですから、出来れば好きに話させて貰えると助かるんですが……」
そう言うとアランが少し俯く。
「……分かりました」
アランが俺の事を思っての行動なのは分かってる。
でもラジールの話も聞きたいし、なんな今のラジールからは危険を感じないんだよね。
そんな事を考えながら、俺はもう一度ラジールに向き直った。
ラジールは鎖が届くギリギリの位置で立ち尽くしていた。
シュンと俯いていて、なんか捨てられた子犬みたいで思わず笑ってしまった。
「とりあえず座りましょ?」
ラジールにそう言うと、ラジールはパッと顔を上げた。
「で、何故ここに?」
ソファに座ると、早速話を切り出した。
「ディラントに会いに来た」
そう言ってラジールがニパッと笑う。
………なんだろう。
さっきからラジールに耳と尻尾が見える気がする。
クラーク団のアジトでラジールに会った時は野生の獣みたいだと思った。
でも今はわんこだ。
今もブンブンと揺れる尻尾の幻が見える。
「俺に会いにって、どうして?」
俺は軽く咳払いして気を取り直すと、再度話を切り出した。
「俺、お前の事気に入った。だから傍に置いて貰おうと思って」
そう言ってラジールは笑う。
………あのやり取りの何処に気に入る要素があったんだろう。
俺、ラジールの事脅しただけなのに……
そう思って、俺は軽く頭を抱えた。
ラジールの話では、アジトから逃げた後クラーク団は実質解散したらしい。
その後、行き場を無くしたラジールは『ディラント』の名前を頼りに俺を探していたらしい。
………そういえば、あの時は家名を名乗ってなかったな。
俺を探してる最中に、何故か森に迷い込んでルオを見つけた。
その後はルオと一緒に俺を探し回って、邸の庭で力尽きた。
「どうして俺の傍に居たいと思ったんですか?」
「俺はスラム出身で家族も居ない。どうしようかと思ったときにディラントの顔が浮かんだ。だからディラントの所に行こうと思った」
ラジールの目を見て、嘘を吐いてたり何かを企んでる様子は感じられなかった。
誰も頼る人が居ないラジールに取って、クラーク団というのは拠り所だったのかもしれない。
実質、俺がその拠り所を奪ってしまった。
「あなたは………」
「ラジール」
「え?」
「ラジールって呼んでくれ」
そう言ってラジールが笑う。
俺はため息をついた。
「ラジールは俺の傍で何をするつもりなんですか?」
「傍に居られるなら何でもする」
そう言うラジールに、俺はもう一度ため息をついた。
その後伯爵様をチラッと見た。
伯爵様は難しい顔をしている。
俺が傍に居ることを許しても、最終決定権を持ってるのは伯爵様だ。
伯爵様がOKを出さない限り、俺は何も出来ない。
「最終的に決めるのは俺じゃない、父様です。父様に認めて貰えなければ、ラジールをここには置いておけません」
そう言うと、ラジールは伯爵様を見た。
伯爵様が大きくため息をつく。
「7日、様子を見る。その間に私が出した課題をクリアして貰う」
伯爵様がそう言うと、ラジールが頷く。
「ただし、ディラントはもちろん、この邸の者たちを害するようであれば私の全権力をもって貴殿を排除する」
そう言う伯爵様に、いつもの優しい感じは無かった。
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