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第106話 ∥
扉が開いてアランとラジールが顔を出す。
思惑通り、二人一緒に来てくれたみたいだ。
そんな事を考えていてアランと目が合った瞬間、アランが駆け寄ってきた。
「ディラント様!」
俺の名前を呼びながら駆け寄ってきたアランに抱き締められた。
「………良かった、無事で良かった」
そう言って苦しいくらい抱き締められる。
苦しいと止めようと思ったけど、そう言って抱き締めてくるアランを引き離す事が出来なかった。
「すいません、俺は無事ですから」
そう言って、俺はアランの背中に手を回した。
ふとアランの後ろから来るラジールに視線を送る。
ラジールは部屋に俺とレオンさんだけしか居ないことに気付いて『やっぱりな』って表情をした。
俺はそれに思わず苦笑を向けた。
でもどこかホッとした感じだったからラジールにも心配掛けてしまったんだろう。
「アランさん、落ち着きましたか?」
アランに抱き締められてしばらく、流石に落ち着いただろうとアランの背中をポンポンと叩いてみる。
「………ディラント様」
漸く離れたアランから少し低めの声が聞こえてくる。
「……ん?」
「説明、ちゃんとしてくれますよね?」
顔を上げたアランがそう言ってニコリと笑う。
でもその目は笑ってなかった。
「…………はい」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(アランside)
ディラント様から今回の騒動の理由を聞いた。
俺とラジールが話す切っ掛けを作ること。
あわよくば、俺たちが和解出来ればと考えていたらしい。
全部ラジールの言った通りじゃないか。
そう思って、俺はグッと手を握った。
「とても心配しました」
「……すいません」
そう言ってディラント様は苦笑する。
「二人が歩み寄るにはどうすれば良いのか考えたら、こんな事しか思い付かなかったんです」
「……なんで、そこまで俺たちを?」
「二人を見ていたら、お互いに良い存在になると思ったんです。ちゃんと話すことが出来れば分かり合えると……」
「………俺はラジールが嫌いです」
呟くように言うと、ディラント様がクスクスと笑う。
「"前は"じゃないですか?今は違うんじゃないですか?」
そう言うディラント様に、俺は何も言えなかった。
確かに前よりは警戒心も嫌悪感も薄れてる。
そう思って、俺は離れてる場所に居るラジールをチラッと見る。
「アランさんがラジールの事を嫌っていたのも警戒していたのも知っています。それでも一度話し合ってみて欲しかったんです」
そう言ってディラント様が俺を見る。
「アランさんがラジールを嫌ったり警戒したりしてたのは、ラジールが今までスラムに居たからですよね?」
そう言われて、俺は頷く。
「確かにスラム街で生活している人は好戦的です。警戒するのは当たり前です。でも誰もがそうだとは限らないんです。でもそれを見極めるにはそういった先入観が邪魔してしまいます」
「……先入観?」
「先入観は視野を狭めてしまう。それでは見えるものも見えなくなってしまいます。アランさんには先入観抜きでラジールの事を見て欲しかったんです」
「……どうして」
「アランさんには気心の知れる仲間が必要だと思ったんです。当然、俺や父様もアランさんの味方ですけど、気心知れたとはちょっと違うと思ったんです」
『お前の為じゃないか?』
ラジールが言った言葉が頭に浮かぶ。
…あぁ……本当にこの人は……
「で、ラジールはどうでしたか?」
そう言ってニヤリと笑う。
悪戯っぽく笑うディラント様に、俺は困ったように笑った。
「その事に関しては、旦那様も交えてお話しします。まずは邸に帰りましょう」
そう言って手を差し出すと、ディラント様は俺の手に自身の手を置いた。
「はい」
ディラント様はニコッと笑って頷いた。
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