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第112話 ∥

伯爵様の執務室につくと、アランが扉をノックする。 「ディラント様をお連れ致しました」 アランが扉に向けてそう言うと、カチャリと扉が開いてアルマさんの顔を出した。 アルマさんは俺たちを確認すると部屋の中に入るようにと扉を開けてくれた。 「あぁディー、すまないがもう少しだけ待っててくれるかい」 机に向かってる伯爵様が俺たちに視線を向けると、そう言ってまた机の上に視線を戻した。 ここに来る度、伯爵様はいつも机に向かっていた。 仕事するための部屋なんだから当たり前なんだけど、いつ来ても机の上に大量の書類が積まれていた。 伯爵様、いつも忙しそうだ。 あの書類全部に目を通してサインをしなきゃいけないらしい。 ちゃんと休んでるのかな。 俺は机の上に積まれた書類の量に伯爵様が心配になった。 伯爵様が仕事をしている間、アルマさんは書類を運び、アランがそれを手伝っている。 ラジールは俺のお茶とお菓子をせっせと準備していた。 ………俺だけ座ってるの、なんかいたたまれない。 何か俺にも出来ることと思って周りを見てみるけど何もなくて、俺は大人しく座ってる事しか出来なかった。 「待たせてしまってすまないね」 しばらくすると一段落ついたのか伯爵様がソファに移ってきた。 ラジールが急かさず伯爵様の分のお茶を用意した。 伯爵様がそのお茶を飲んで息を吐いた。 「ラジール、仕事の方はどうだい」 伯爵様のお茶を淹れ終えて俺の後ろに控えていたラジールに訪ねる。 「はい、まだ慣れないため失敗もありますが、皆良くしてくれています」 そうラジールが答えると、伯爵様は『そうか』とまたお茶を口にする。 「……美味しい」 お茶を飲んだ伯爵様がそう呟く。 「お茶も上手く淹れられるようになったね」 そう言って伯爵様がラジールに笑顔を向ける。 そうすると、ラジールは少し照れたように俯いた。 伯爵様が『ふむ』と頷く。 「ラジールも良くやってくれていると報告を受けている。アランからの評価も悪くない」 そう言う伯爵様に皆の視線がアランに向く。 その瞬間、アランが顔を背けた。 「…私は適正な評価をしただけです」 そう言うアランに伯爵様はクスクスと笑った。 伯爵様がもう一度頷く。 「アラン、ラジール、今日付けでディラント付きの従者として認める。ディラントを支えてあげてくれ」 伯爵様がそう言うとアランとラジールは顔を見合わせた後、胸に手を当てて礼をした。

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