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第114話 ∥

「………アラン?」 アランはとても冷たい声を発し、冷たい瞳で見下ろす。 そんなアランに、俺は恐る恐る名前を呼んだ。 いつものアランは目が合うと微笑みかけてくれていた。 実際は"俺"の方が年上だけど、アランはお兄さんみたいだと思っていた。 今までこんな冷たい声と瞳を向けられた事なんてなかった。 そう思って不安気に見ていると、アランと目が合って思わず体が揺れた。 そんな俺に気付いたのか、アランはバツが悪そうに目を閉じてゆっくり開けるといつもの笑顔で笑った。 いつものアランの笑顔。 俺はその笑顔にホッと息を吐いた。 「すいません」 そう言って掴んでいた俺の手を離す。 「こいつを甘やかすとすぐに付け上がるので」 アランがクイッと親指でラジールを指すと、ラジールが不機嫌な表情をする。 「なんだよ、せっかくディラント様が撫でてくれようとしたのに」 そう言ってラジールがアランを睨む。 「お前は従者が如何なるものか、まだ分かっていないようだな」 そう言ってアランが冷ややかな視線をラジールに向ける。 その瞬間、二人の間に火花が散ったような気がした。 ………あれ、これって、俺が一番苦労するパターン? ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ (アランside) 旦那様との話が終わってディラント様の部屋に戻ってきた。 部屋に戻ると俺はディラント様に出す為のお茶の準備をした。 その間、俺はずっとイライラしていた。 それはラジールが部屋に入るなり、ディラント様を膝に乗せてくっついているからだ。 ディラント様も『下ろして』と言うものの、本気で嫌がってはいなかった。 そんな姿を見せられて、俺は心穏やかでは居られなかった。 『ディラント様から離れろ』 そう頭の中で叫んで、今すぐにでもラジールから引き離したい衝動に駆られる。 でもこの感情のまま行動することは出来なくて、俺は必死にその感情を押さえ込んだ。 なんでこんな風に思うのか分からない。 胸の奥から黒いドロドロしたものが沸き上がってきて気持ち悪い。 俺はどこかおかしくなってしまったんだろうか。 そう思って、俺は眉をひそめた。 お茶の準備を終えて振り返ると、ディラント様がラジールの頭を撫でていた。 衝撃的だった。 なんで?俺にはそんな事してくれたこと無いのに。 なんでラジールには……… ラジールの『もっと撫でて』と言う言葉に、ディラント様はもう一度手を伸ばす。 嫌だ! そう思って、気付いたら俺はディラント様の手を掴んでいた。 黒い感情がどんどん溢れてくる。 自分から恐ろしく冷たい声が出て驚いた。 ハッとしてディラント様を見ると、その目には恐怖の色が見てとれた。 しまったと思った。 こんな身勝手な感情でディラント様を怖がらせるなんて…… そう思って俺は目を閉じて心を落ち着かせた。

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