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第122話 ∥

(アランside) レオン様から剣術を教わるディラント様を見ていると、ディラント様は苦戦しているようだった。 何事も器用にこなすディラント様が苦戦しているのは珍しい。 でも新たな一面を見られたことに嬉しく思えた。 「ディラントは剣術が苦手みたいだな」 俺がディラントを眺めていると、ラジールがクスクスと笑いながらそう言う。 「ディラント"様"だ」 「あんたそればっかだな。今は公の場じゃない、公の場じゃなければ今のままでも良いとディラントも言ってただろ」 呆れ気味に言うラジールを睨む。 「公の場じゃなくてもちゃんとしないと、その内ボロがでる。そうなれば恥をかくのは主であるディラント様だ」 そう言うと、ラジールが『ふーん』と声を上げる。 「そうだ!ただ見てるのもあれだし、俺たちも手合わせしよう」 そう言ってラジールがパンッと手を叩く。 「は?」 唐突にそう言うラジールに着いていけなかった。 ラジールが木剣がしまわれている小屋に向かって歩いていく。 俺はそれを何も言えず見送った。 しばらくして戻ってきたラジールが手に持っていた木剣を投げ渡してくる。 俺はそれを反射的に掴んだ。 「あんたもそれだろ?」 そう言われて、俺は受け取った木剣を見る。 それはダガータイプの木剣だった。 ラジールを見ると、その手には同じダガーの木剣が握られている。 やっぱり、これも一緒なのか。 そう思って、俺は小さくため息をついた。 スラム出身の人間は殆どが武器はダガーがナイフを選ぶ。 それはスラムで生活していると、身に付くのが暗殺術になるからだ。 スラムで最初に学ぶのは身近に居る大人の顔色を伺うこと。 何も出来ない子供のうちは大人に頼るしかない。 でもその大人の機嫌を損ねてしまったら、下手すれば殺されることだってあった。 だから幼い子供は大人の機嫌を取り、大人に従う。 体が成長して次に覚える事は回避だった。 目の前に居る『敵』からどう逃げればいいか必死に考えた。 そうすることで、相手を観察し次の動きが自然と予測出来るようになる。 一人で生活出来るようになると武器を持つようになる。 スラムの住人に強さを示す必要はない。 スラムの住人に求められるのは、素早く相手を倒し、一刻も早くその場を去ること。 騎士のような派手な動きはいらない。 必要なのは、最小限の動きでいかに少ない手数で相手を倒せるか。 その条件を突き詰めれば、自ずと暗殺術に行き着く。 俺はラジールをチラッと見た。 ……俺と同じ境遇の人間。 それも、俺より遥かに長い時間をあの場で過ごしていた人。 俺は小さく息を吐く。 「分かった、手合わせをしよう」 そう言って俺は木剣を逆手に持ちかえると、それをラジールに向けるように出前に突きだした。

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