131 / 226

第129話 ∥

何に対しての謝罪なのか分からなくて俺は思わず狼狽えてしまう。 「あ、頭を上げてください。どうしたんですか、突然」 俺は慌てて頭を下げる二人に戻すように促す。 二人は渋々頭を上げてくれて、俺はホッと息を吐いた。 「で、何に対しての謝罪なんですか?」 椅子に座って落ち着いたところで、俺はそう聞く。 そうすると、二人が顔を見合わせた。 「……手合いの時の事です」 アランが俯き気味に言う。 「俺が誘ったんだ。でも手合わせしてる間に熱くなっちゃって……」 とラジールも『ごめんなさい』と俯き気味に言う。 ヤバい!垂れた犬耳が見える! 叱られてしょんぼりしてる犬みたい! 俺はラジールの幻の犬耳に悶えた。 それを隠すように咳払いすると、気を取り直して二人に向き合った。 「別に気にすることではないですよ」 そう言うと、二人がきょとんとする。 「手合いをしていて熱くなることは、よくあることです。それだけ本気になれる相手がいるのは良いことですよ」 「……本気になれる相手?」 そう言ってアランが首を傾げる。 「アランはラジールに負けたくないと思ったんですよね?」 そう聞くとアランが頷く。 「それはとても良いことですよ。負けたくない相手が居ると、自分を高めることが出来ます。そういう相手を何て言うか知ってますか?」 そう言うと、アランが首を振る。 「好敵手、ライバルです」 「……ライバル?」 「ライバルは作ろうと思って出来るものじゃありません。そんな人が相手だったんです、熱くならない訳がありません。 でもあの時はあのままだと二人とも怪我をしかねなかったので、咄嗟に魔法で止めたんです。まさか魔力切れで倒れるとは俺も思ってもみなかったので……二人には心配かけてしまいましたね」 そう言って笑ってみせると、二人は首を振った。 「これは俺のせいだから…」 そうラジールが言う。 「違う、俺が…」 ラジールの言葉に被せるようにアランが声を上げる。 その瞬間、二人が驚いたように顔を見合わせた。 俺はそんな二人を見て、思わず笑ってしまった。 俺にも昔、ライバルと言える相手が居た。 二人を見ていて、その相手を思い出した。 「……いいな」 無意識にそう呟いていた。

ともだちにシェアしよう!