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第129話 ∥
何に対しての謝罪なのか分からなくて俺は思わず狼狽えてしまう。
「あ、頭を上げてください。どうしたんですか、突然」
俺は慌てて頭を下げる二人に戻すように促す。
二人は渋々頭を上げてくれて、俺はホッと息を吐いた。
「で、何に対しての謝罪なんですか?」
椅子に座って落ち着いたところで、俺はそう聞く。
そうすると、二人が顔を見合わせた。
「……手合いの時の事です」
アランが俯き気味に言う。
「俺が誘ったんだ。でも手合わせしてる間に熱くなっちゃって……」
とラジールも『ごめんなさい』と俯き気味に言う。
ヤバい!垂れた犬耳が見える!
叱られてしょんぼりしてる犬みたい!
俺はラジールの幻の犬耳に悶えた。
それを隠すように咳払いすると、気を取り直して二人に向き合った。
「別に気にすることではないですよ」
そう言うと、二人がきょとんとする。
「手合いをしていて熱くなることは、よくあることです。それだけ本気になれる相手がいるのは良いことですよ」
「……本気になれる相手?」
そう言ってアランが首を傾げる。
「アランはラジールに負けたくないと思ったんですよね?」
そう聞くとアランが頷く。
「それはとても良いことですよ。負けたくない相手が居ると、自分を高めることが出来ます。そういう相手を何て言うか知ってますか?」
そう言うと、アランが首を振る。
「好敵手、ライバルです」
「……ライバル?」
「ライバルは作ろうと思って出来るものじゃありません。そんな人が相手だったんです、熱くならない訳がありません。
でもあの時はあのままだと二人とも怪我をしかねなかったので、咄嗟に魔法で止めたんです。まさか魔力切れで倒れるとは俺も思ってもみなかったので……二人には心配かけてしまいましたね」
そう言って笑ってみせると、二人は首を振った。
「これは俺のせいだから…」
そうラジールが言う。
「違う、俺が…」
ラジールの言葉に被せるようにアランが声を上げる。
その瞬間、二人が驚いたように顔を見合わせた。
俺はそんな二人を見て、思わず笑ってしまった。
俺にも昔、ライバルと言える相手が居た。
二人を見ていて、その相手を思い出した。
「……いいな」
無意識にそう呟いていた。
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