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第130話 ∥
(アランside)
ディラント様が遠くを見て『いいな』と呟いた。
その時のディラント様はすごく儚くて、今にも消えてしまいそうで、俺は咄嗟にディラント様の腕を掴んだ。
ラジールも同じように感じたみたいで、反対側の腕を掴んでいた。
この世界の何も映してないような瞳ですごく遠くを見ていて、すっと消えてしまうかと思った。
このままディラント様が居なくなってしまうかと思った。
俺は不安に駆られてディラント様の腕を更に強く掴んだ。
「ど、どうしたんですか?」
驚いたようなディラント様の声に、パッと見るとディラント様が俺たちを見ていた。
その瞳には確実に俺たちが映っている。
触れている手から、さっきは感じられなかったディラント様の体温を感じる。
ディラント様の存在が感じられる。
そう思って、俺はホッと息を吐いた。
「すいません、ディラント様が居なくなってしまうかと思って……」
ラジールをチラッと見ると、ラジールもいまだにディラント様の腕を掴んでいた。
そんな俺たちを見てディラント様が笑う。
「居なくなるって…俺は何処にも行ったりしませんよ。だから、ね?ラジールも落ち着いてください」
そう言ってディラント様は腕にしがみついてるラジールにも笑顔を見せる。
「……ずっと傍に居てくれる?」
そう言ってラジールが不安そうな視線を向けた。
そうなラジールにディラント様が少し悲しそうな笑顔を向けた。
「……申し訳ありません、それは約束出来ません」
そう言ってディラント様はまた少し遠くを見る。
それにまた不安が沸き上がる。
沸き上がってくる不安を押さえ込みながら俺たちはディラント様の言葉を待った。
そんな俺たちを見て、ディラント様が笑った。
「そんな不安そうな顔をしないでください。『ずっと一緒に』なんて無責任な約束、俺には出来ないけど……今は一緒に居るから」
そう言って、ディラント様が腕を掴んでいた俺たちの手を取る。
「俺から離れる事はないから……今はそれじゃ駄目ですか?」
ディラント様が少し不安そうに聞いてくる。
俺とラジールは顔を見合わせてお互いの思考を交差させる。
もう一度ディラント様を見ると、まだ不安そうな顔をしている。
俺はディラント様が好きだ。
従者としては過ぎた想いだと自覚している。
ずっと傍に居たいと思う気持ちもある。
でも……
「いえ、今はそれで構いません」
この先、ずっと一緒に居られるかは分からない。
でも今はそれで良い。
そう思って、俺はディラント様の前に跪いた。
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