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第133話 ∥
俺は伯爵様に言われた通り、アイスグリーンの色の物を探した。
でもアイスグリーンというかなり珍しい色の物はそうそう無くて、俺は途方に暮れた。
そんな俺を見かねてか、伯爵様が宝石ならあるんじゃないかと言ってくれた。
俺は今、伯爵様の計らいで呼んでくれた商人と向かい合って、あれでもないこれでもないと悩んでいた。
アランとラジールに贈るなら、身に付けられる物がいい。
でも仕事の邪魔にならない物じゃないといけない。
おまけにアイスグリーンという色の宝石が圧倒的に少ない。
商人が前もって厳選して持ってきてくれたけど、いまいちピンと来るものがなかった。
「……あ、これ…」
商人がこれが最後だと出してきた物の一つに目が止まった。
俺はその宝石を手に取って光に透かしてみた。
それを覗き込んでみると、中にうっすらと違う色が見えた。
その宝石は普段は透き通ったアイスグリーンをしているけど、光に透かすと微かに青みを帯びていて不思議な色をしていた。
「…青?」
「そちらはラジットストーンという宝石です」
商人が宝石の説明をしてくれる。
「ラジットストーン?」
「はい、ラジットストーンは少々変わった性質がありまして、今みたいに光に透かすと色が変わります。しかもその色は持つ者の魔力で変化すると言われています」
『青く見えるということは、ディラント様の魔力は清らかなのですね』と言って商人が笑う。
清らかかどうかは分からないけど……この石、すごく不思議な感じがする。
「………これってアクセサリーに加工出来ますか?」
「はい大丈夫ですよ」
「……じゃあ」
俺はラジットストーンに惹かれて、この石で二人への贈り物を作ることにした。
商人とアクセサリーを考案していく。
いくつもデザインを出し合って、漸く納得のいくものが出来上がると商人に作ってもらうように依頼をした。
・・・・・・・・・・
「二人とも急に呼び出してしまってすいません」
「いえ。 ……それより用とは何ですか?」
そう言ってアランが首を傾げた。
数日前に商人に依頼した物が今日届けられた。
俺は早速二人に渡すことにした。
「二人にこれを渡したかったんです」
そう言って俺はアランとラジールに贈り物の入った箱を手渡した。
「ディラント、これは?」
ラジールが俺と贈り物の箱を交互に見ながら聞いてくる。
アランも箱をじっと凝視している。
二人には内緒で用意していたから驚くのは無理もない。
「父様に従者が出来たらその証として自分の色の入った物を贈ると聞きました。だから、それは俺から二人に……」
『どうぞ、開けてみてください』と言うと、二人は少し躊躇しながら箱を開けた。
こういった贈り物をするのは慣れてないから少し照れくさい。
しかも二人には内緒で用意していた為、俺は二人がどういう反応するのかとドキドキしながら見守った。
二人に贈ったのは、チェーンで繋がった2連のピンズ。
一つは俺の色としてラジットストーンが使われていて、もう片方をアランはブルーグレイの、ラジールは赤褐色の石が使われていた。
本当はラジットストーンだけでも良かったんだけど、それではどこか寂しいと感じて、もう片方を二人のイメージに合った石をつけることにした。
おまけに、これはピンズ同士を引っ掻けるとブレスレットに出来る2wayタイプ。
従者服の時は襟につけられるし、それ以外はブレスレットとして使える。
チェーンも細いものを選んだし、デザインもシンプルにしたから男の人がブレスレットとしてつけてても違和感はないと思う。
俺が考案したデザインを見て、商人は『斬新なデザインだ』と誉めてくれた。
伯爵様は微妙な顔をしていたけど……
俺は箱の中身をじっと見つめている二人に固唾を飲んだ。
ピンズを見つめたまま何の反応もしない二人に不安が込み上げてくる。
「………これ、ディラントが?」
しばらくしてラジールがそう呟く。
「…はい」
……もしかして気に入らなかったのかな。
「…えと、二人に似合うように考えたつもりだったんですけど……気に入らな……」
『気に入らなかったですか』と言おうとすると、突然二人に抱き締められた。
「………俺…誰かに物を貰うなんて…初めてだ」
そうラジールが俺を抱き締めながら言う。
「……俺も、です」
アランもそう呟いた。
二人とも若干涙声になってる……
これは、喜んでくれたのかな?
「……あの、気に入ってくれましたか?」
そう聞くと、二人が顔を上げて満面の笑みを見せてくれた。
その笑顔で俺も嬉しくなった。
その後は二人ともピンズをつけようとしてたけど、付け方が分からないのか『違うそうじゃない』とか『こうだって』とか言い争いながら付けようとしていた。
見かねた俺は、付け方を教えるように二人のジャケットの襟にピンズを付けてあげた。
そうすると、二人がまた嬉しそうに笑った。
ちなみにこのピンズのデザインは商人が商品化したいと言ったので、俺は快諾した。
のちに商品化したピンズは、"カップル仕様"として流行したことは俺は知る余地もなかった。
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