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第137話 ∥
伯爵様との話が終わってシャロウネと部屋に戻ってきた。
ソファに座ってさっきの会話の内容を思い出す。
そうするとまたため息が出た。
「ディーと学院に通えるなんて楽しみですわ!」
シャロウネがそう言って嬉しそうに笑う。
「学院に通うのは良いのですけど、ディーと一年も離れて暮らさなければならないと思うと憂鬱でしたの」
エクレール学院に入学すると、自立を目的として親元を離れて寮で生活しなければならない。
「ディーならSクラスは確実でしょうから、私も頑張らなくては」
そう言ってシャロウネがこぶしを握る。
「いや俺、試験の準備は何もしていないですよ。そんなSクラスなんて……」
「いえ、ディラント様ならSクラスは確実ですよ」
そうリーナさんが言う。
その後ろでアランとラジールも頷いていた。
何で皆そんな自信満々なの!?
「………出来る限り、努力します」
俺はため息混じりにそう言った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(シャロウネside)
まさかディーも学院に入学するとは思わなかった。
お父様の話を聞いて、舞い上がったのは言うまでもない。
エクレール学院は全寮制。
学院に入学するにはここを出なければいけない。
学院に通うことも、寮で暮らすことも楽しみではあった。
けど学院に通うにあたって、一番懸念していたのがディーの事だった。
一年もディーと離れる事が心配だった。
いえ訂正します、"私"がディーと離れる事が嫌だったのです。
だって一年もディーと離れるのですよ!?
休みには帰ってくるといっても、ディーに会えるのは一年の内のほんの数日。
そんなの耐えられませんわ!!
私はいつでもディーと一緒に居たいのです!
それにディーがこの邸に来て7年、ディーは自覚してませんが、艶めく黒髪煌めくアイスグリーンの瞳は健在。
あどけなさは残るものの男性らしい面持ちにもなって、より一層美しく成長した。
一年も離れてる内に変な虫がついては困りますわ!
そこで私はハッとした。
いえ、ちょっと待ってください。
ディーが学院に行ったら、それこそ悪い虫が群がってくるのでは!?
「………ネ……」
確実に群がってきますわ!
学院は年頃の令嬢たちが集まる場。
おまけにディーのSクラスは確実。
令嬢たちがディーを放っておく訳がない。
いえ、令嬢だけじゃありませんわ。
殿方も油断なりませんわ。
ディーの場合は、令嬢だけではなく殿方も魅了してしまう。
「………ーネ…」
これは一大事ですわ!
もしクラスが違ってしまえば、私がディーを守ることが出来ない。
ここは何が何でもSクラスにならなくては。
「シャーネ!」
突然呼ばれて体が跳ねた。
「……え?」
見ると、ディーが覗き込んでいた。
「ずっと呼んでるのに……何か考え事ですか?」
そう言ってディーが首を傾げる。
私はそんなディーの手を掴んだ。
「私、頑張りますわ!絶対にSクラスになります!」
「え!? ……うん……?」
突然の宣言にディーがぽかんとする。
絶対にSクラスになってディーを数多の魔の手から守りますわ!!
そう心に誓って、私は強く拳を握り締めた。
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