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第140話 ∥

普段はここまで警戒はしないけど、ここは邸の外だ。 いくらここが貴族御用達の宿で警備はしっかりしているといっても、いつ何時何が起きるか分からない。 アランはゆっくり扉を開けて確認すると、一言二言話してリーナさんと後ろに居たシャロウネを部屋の中に招き入れた。 部屋に入ってきたシャロウネは俺を見るなり駆け寄ってきた。 「ディー、大丈夫ですか?」 「大丈夫です。ラジールがハーブティーを淹れてくれたので少し良くなりました」 そう言って笑いかけると、シャロウネがホッと息を吐いた。 「……まだ顔色が悪いですね」 そう言ってシャロウネが俺の頬に触れる。 「すいません、心配掛けました」 「本当ですよ。宿に着くなり蹲ってしまって、驚いたんですよ?」 馬車が走っている最中、俺は体調の悪さを我慢していた。 もう少しで着くからと我慢していると、宿に着いた瞬間限界がきたのと、馬車を降りた安堵で動けなくなってしまった。 突然蹲ってしまった俺にシャロウネは狼狽え、リーナさんやアラン、ラジールもバタバタと慌てていた。 宿の人にも迷惑を掛けてしまって申し訳ない。 「ディラント様!これからは体調の悪い時はちゃんと報告してください!」 リーナさんが怒り気味に言う。 「すいません」 俺が素直に謝ると、リーナさんは困ったように笑って『絶対ですよ』と言った。 そんな会話をしていると、また扉がノックされた。 扉の前にアランとラジールが、俺とシャロウネの前にはリーナさんが急かさず立つ。 これも俺たちを守る為の陣形らしい。 皆が真っ先に危険に晒される事になるから本当は止めて欲しいけど、俺が口出す事ではないので何も言えない。 『宿主のカールと申します』 扉の外からそう声がして、俺たちは顔を見合わせた。 俺は取り敢えず対応するようにアランに指示を出した。 「ディラント様、食事はどうするかとの事です」 しばらく話してたアランが内容を話す。 「……あー」 正直、俺はいらない。 でもシャロウネたちには用意してもらわなきゃ。 そうアランに伝えると、アランが宿主にそう伝える。 「こちらで召し上がるかと」 またアランが宿主の言葉を伝える。 ………なんか伝言ゲームみたいだな。 でも俺たちの安全を考えると仕方ないのか。 「俺はもう休むので、皆は気にせず食べて下さい」 そう言うと、皆が顔を見合わせた。 「ディー、本当に大丈夫ですか?」 シャロウネがまた俺の頬に触れて心配そうにする。 「大丈夫ですよ。ただの疲れと馬車酔いなので、休めば良くなります」 俺がそう言っても、シャロウネは俺の頬から手を離そうとしない。 俺はリーナさんをチラッと見た。 「お嬢様、私たちが居てはディラント様が休めません。お食事もしなければいけませんし、そろそろお暇いたしましょう」 そう言ってリーナさんがそっとシャロウネの肩に手を置く。 シャロウネは悩んだ後、小さく頷いた。 「…分かりましたわ」 シャロウネはリーナさんにそう答えた後、もう一度俺に向いた。 「ではディー、ゆっくり休んで下さい」 「分かりました」 そう言って俺は笑ってみせた。 「ではディラント様、私たちは失礼させていただきます」 そう言ってリーナさんがシャロウネを連れていく。 「お休みなさい」 そう答えると、リーナさんは頭を下げて部屋を出ていく。 アランとラジールもそれに続いて部屋を出ていった。

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