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第142話 ∥
俺が席に着くとアランが俺の分を、リーナさんがシャロウネの分の朝食を運んできた。
手際よくそれぞれの前に並べていく。
俺の前にはサンドイッチが、シャロウネの前にはサラダとパン、卵料理が並べられた。
リーナさんが俺とシャロウネに紅茶を淹れてくれる。
配膳が終わって、俺たちは食前の祈りを済ませると食べ始めた。
食前の祈りは"俺"の世界で言う『いただきます』と同じ。
最初は違和感があったけど、今は慣れたものだ。
俺は手より少し大きめのサンドイッチを一つ掴んで口に運んだ。
ふとシャロウネを見ると、俺の事をじっと見ていた。
「シャーネ、どうしたんですか?」
そう聞くと、シャロウネは視線を下に向けた。
「……なんだかディーと比べると、私が大食のようですわ」
「シャーネは普通だと思いますけど……」
「お嬢様、ディラント様と比べてはいけません。お嬢様はそのままで良いのです。ディラント様には、むしろもっと食べて頂きたいくらいなのですよ」
とリーナさんがシャロウネに向かって言うけど、最後の方は明らかに俺に向けて言ってる。
俺は前より食べられるようになったと言ってもシャロウネの半分以下。
頑張ってはみたものの、7年経っても食べられる量はあまり変わらなかった。
下手に口を挟むと面倒な事になると思って、俺は黙ってモソモソとサンドイッチを口に運んだ。
朝食を終えて宿を出る準備をする。
あまり遅くなると、次の宿に着くのが遅くなってしまう。
夜に馬車を走らせるのは危ないという事で出来るだけ早く出発したいと言われた。
これからまた1日中馬車に乗ると思うと、気が滅入ってくる。
俺は小さくため息をつきながら支度をした。
準備を終えてアランと一緒に宿の外に出ると、俺を見つけたラジールが走ってきた。
「ディラント様!」
「ラジール、おはようございます。出発の準備ありがとうございます」
「これくらい何ともないよ」
そう言って、ラジールが嬉しそうに笑う。
ラジールの頭には犬耳が見えて、尻尾をブンブンと振って『もっと誉めて』とでも言うようにニコニコと笑う。
俺が思わずラジールの頭を撫でると、ラジールの表情がフニャと緩んだ。
………かわいい。
普段はキリッとしてて格好いいのに、甘えるワンコは健在だ。
そんな事を考えながらラジールの頭を撫でていると突然手を掴まれた。
驚いて見ると、アランがムスッとした顔をしている。
「……アラン?」
「従者に対してそんな事しないようにお願いします」
そう言って見下ろすアランに、一瞬怯んでしまった。
「……ごめんなさい」
俺が謝ると、アランは掴んでいた俺の手を離して馬車の方に歩いていった。
………なんか、怒らせちゃったかな。
俺は掴まれた手を擦りながら、離れていくアランを見送った。
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