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第146話 ∥
(シャロウネside)
ディーの『大丈夫』は信用出来ない。
ディーは大丈夫じゃなくても大丈夫と言う。
いくら体調が悪くてもディーはそれを隠してしまう。
だいぶ解消されたものの、それは小さな頃から変わっていない。
だから私を初め、ディーの傍に居る者たちはディーの顔色などの体面から判断するようになっていた。
誰もが同じような反応をする為、ディーは不思議なようで首を傾げていた。
私はその様子に思わず笑ってしまった。
「ディー、食事はどうされますの?」
アランに促されて対面に座るディーに訪ねてみる。
「これからまた馬車移動だと思うととても食べられそうにないのでお茶だけと……」
そう言って憂鬱そうにするディーに私は苦笑を漏らした。
「ディラント様、お待たせしました」
しばらくするとラジールがお茶を持ってきた。
「今日は爽やかな香りのハーブティーにしてみました」
ラジールがカップにハーブティーを注ぐと爽やかな香りがこちらにまで漂ってきた。
ハーブティーの入ったカップをディーの前に置くと、ディーはラジールに笑顔を見せてお礼を言った。
「ラジール、私にも淹れていただけるかしら?」
そう言うと、ラジールは一瞬冷たい視線を向けた後、何事も無かったように微笑んだ。
「畏まりました」
そう言ってラジールは胸に手を当てて頭を下げた。
スラムに暮らす人は自分の認めた相手を主人とすると聞いたことがある。
ディーやアランみたいに幼い頃に離れていれば問題は無いのだけれど、ラジールは数年前までスラムに居た。
ラジールはディーが己の従う主人だと思っている。
ディーに対してと私に対しての態度が違うのはそのせい。
私はラジールの淹れたハーブティーを一口飲んだ。
ラジールがディーに向ける感情は主としてではない。
もっと特別な感情。
恐らく気付いていないのはディーくらいじゃないかしら。
私は甲斐甲斐しくディーの世話をするラジールに視線を向けた。
ディーに特別な想いを持つことを止めるのは、私には無理な事。
その想いを受けるかどうかはディー次第。
でも、そう簡単には私からディーは奪わせませんわ!
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