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第149話 ∥

(ラジールside) 部屋の外に気配がして見てみると、ディラントがどこかへ行くところだった。 俺はこっそりとディラントの後をつけた。 この学院都市は比較的安全とはいえ、こんな夜更けに一人で出歩くのは危ないと思った。 ディラントは中庭まで出てくると武術の型をやり始めた。 ……寝付けなくて体を動かしに来たってとこか。 外に出ていこうとしたら止めたけど、ここなら大丈夫か。 そう思って、俺はしばらくディラントを眺めていた。 ディラントの武術の型は不思議だ。 見たことのない型を当たり前のようにするディラントに、何年か前に一度だけどこの流派の型なのかと聞いたことがある。 ディラントの答えは『独学で体に染みついているもの』と返ってきた。 体に染みつく程繰り返したのかと聞くと、ディラントはただ微笑むだけだった。 でも俺は、その時のディラントが笑顔なのにどこか泣いてるように見えて、それ以上聞くことが出来なかった。 しばらくするとディラントが動きを止めた。 気が済んだのかと思って見ていると、どうやらそうではないらしい。 ディラントは体を動かした後だというのに少し不機嫌そうにしていた。 ………あれは、物足りないって顔だな。 型を一通り通すのはディラントの日課みたいなものだ。 最近ではその後にルオを相手にしていた。 でも今はルオは居ない。 物足りないと思って当然だ。 しかしこんな夜更けじゃ相手なんて見つからないだろうな。 ……仕方ないな。 そう思って、俺はディラントに声を掛けた。 「物足りないなら、俺が相手になるよ」 そう言うと、ディラントの目が輝いた。 「本当ですか!?」 「体、動かし足りないんでしょ?」 「じゃあ、お願いします」 俺たちは少し距離を取るとお互いに一礼をした。 これは相手への礼儀としてディラントが始めたもの。 最初はディラントだけだったけど、今では騎士団にも浸透している。 礼をして構えると、ディラントは一気に戦闘態勢に入る。 突き刺すような鋭い視線を向けてくる。 俺はその視線にゾクッとした。 ……俺が一番好きな眼だ。 鋭く相手を見据えるアイスグリーンの瞳。 ディラントと初めて会った時の、俺が一番惹かれた瞳。 この瞳が見たいから、俺はディラントの傍に居ることを決めたんだ。 しばらく手合いをしていると、ディラントがストップを掛けた。 どうやら体力の限界らしい。 俺が動きを止めると、ディラントはその場に座り込んでしまった。 手合いを始めて、かれこれ10分以上は経ってるか。 かなり全力で動いてたからな。 俺はまだ大丈夫だけど、あまり体力の無いディラントはこれ以上は無理だな。 「ディラント、大丈夫か?」 「……ふふっ」 座り込んでしまったディラントに駆け寄ると、ディラントが突然笑いだした。 「…ディ、ディラント?」 「あー、楽しかったぁ」 そう言って満面は笑みを浮かべる。 「対人の組手は久しぶりです。ラジール、また相手してください」 そう言って楽しそうに笑うディラントに、俺は魅せられた。 ……あぁ、俺のものにならないかな。

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