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第156話 ∥

(リオネスside) 5年前、ディラントを怒らせてしまったこと、ずっと謝りたいと思っていた。 それからはパーティーに出席する度、ディラントの姿を探した。 でもディラントに会うことは叶わなかった。 一度だけ父上がディラントを城に招いた事があった。 その事を知った僕はその部屋に急いだ。 でも僕が部屋に到着した時にはディラントは帰ってしまった後で、また会うことが出来なかった。 その後父上にディラントの事を聞いた。 ディラントが何を考え、どう行動しようとしているのか。 ディラントの考え方には父上も大変感銘を受けていた。 僕はディラントの話を聞いて、自分自身が恥ずかしくなった。 僕は王子という立場に胡座をかいて、なんの努力もしていなかった。 そんな僕が謝ったところでディラントには届かない、そう思った。 それからは勉学に剣術、魔法とあらゆる事を学んだ。 その頑張りを認めてもらい、翌年には王太子に立体した。 立体してからも勉学等で手は抜かなかった。 ここで慢心してしまったら、またディラントに置いていかれると思った。 父上から学院にディラントが入学すると聞き、もしかしたら今度こそ会えるかもと思っていた。 まさか試験会場で会えるとは思ってもみなかった。 久しぶりに会うディラントは、艶のある黒髪に意思の強さを映し出すアイスグリーンの瞳、5年前より成長していて、その美しさに磨きが掛かっていた。 まだ納得はしていない。 でも漸く訪れたディラントとの対話のチャンス、これを逃せば次は何時になるのか分からない。 その思って、僕はディラントの後を追った。 『すまなかった』 僕がそう頭を下げると、ディラントは慌てていた。 訳が分からない様子でもあった。 これは焦って主語を忘れてしまった僕の責任だ。 僕が『5年前の事』と付け足すと、ディラントは理解したらしい。   あの時の僕は、恐らくディラントの最も嫌うことを仕出かした。 今さら謝ったところで許されないかもしれない、それでも謝りたかった。 しばらく頭を下げていると、ディラントから『頭を上げてください』と声がする。 恐る恐る顔を上げてディラントと見ると、ディラントは優しく微笑んでいた。

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