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第158話 ∥
(リオネスside)
王太子として立体してから、周りには常に王太子らしくと言われていた。
隙を見せず常に完璧であれと教えられてきた。
僕もその通りだと思っていた。
王太子という立場である以上、他人に隙を見せてはいけないと思った。
隙を見せれば足元を掬われる、だから誰にも気を許さなかった。
『少しくらい肩の力を抜いても』なんて、誰にも言われたことなんてなかった。
僕は小さく息を吐いた。
隣に座るディラントを見る。
ディラントはまっすぐ僕を見ていた。
「ディラントは、僕を許してくれるのか?」
そう聞くと、ディラントが微笑んだ。
この笑みは僕を許すものじゃない。
僕がディラントの言う通り、少し肩の力を抜いたから。
「殿下はもうあんな事は言わないですよね。だったら許さない理由がありませんよ」
「父上が謝罪した時は受けなかったと聞いたが?」
「あの時の事は、殿下自身が気付かなきゃいけない事です。いくら陛下の謝罪とはいえ、殿下自身が理解しないうちに謝罪を受けることは出来ません」
「……ディラント、今更だがあの時何故あんなに怒ったのか聞いても良いか?」
そう言うと、ディラントは視線を逸らして考える素振りをする。
しばらく考えると、ディラントはゆっくりと語り始めた。
「死は、大切な人を奪うだけじゃなく、残された人の心にも大きな傷を付けます」
ディラントが遠くに視線を移す。
「その傷は、一生癒えることはありません。どんなに会いたくても、もう決して会うとこは出来ない」
そう言ってディラントは自分の胸に手を持っていく。
「誰にも、そんな思いはして欲しくなかったんです」
そう言ってディラントが僕を見る。
その瞬間、アイスグリーンの瞳が揺れた。
「いくら悪ふざけでも……悪ふざけだからこそ『死』を口にする殿下が許せなかった」
「………ディラントは、誰か大切な人を亡くしたのか?」
そう聞くと、ディラントは悲しそうに微笑んだ。
その微笑みを見て確信した。
でもそれ以上、ディラントに聞くことは出来なかった。
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