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第169話 帰宅
試験が終わって、俺たちはまた5日間掛けてグロウ邸に帰って来ていた。
5日間の長旅で疲れ果てた俺は、寝込んでしまった。
馬車に乗ってただけなのに動けなくなるなんて……やっぱりこの体は弱いのかな。
そう思うとため息が出た。
そんな時、部屋の扉がノックされた。
返事をすると、伯爵様が顔を出した。
「ディー、大丈夫かい?」
そう言って伯爵様が近付いてくる。
「父様、もう大丈夫です。すいません挨拶もせずに……」
「気にしなくていい、慣れない長旅で疲れがでたのだろう。学校が始まるまでまだ時間がある、ゆっくり休むといい」
そう言って伯爵様は俺の頭に手を置いた。
学校が始まるのは2ヶ月後。
なんでこんなに期間が長いのかというと、貴族の引っ越しが時間がかかるからだ。
寮で使う家具の手配、メイドや従者の采配、馬車の手配など諸々。
あとは移動時間などを考えると、2ヶ月でもかなりギリギリだ。
「夕食は食べられそうかい?」
そう聞かれて俺は考えてみた。
「……分かりませんが、夕食時には顔を出します」
そう言うと、伯爵様は『分かった』と言って部屋を出ていった。
・・・・・・・・・・・
少しウトウトしているとノック音に意識が浮上した。
「ディラント様、起きてますか?」
……この声…アラン?
俺は意識が浮上しているものの、なかなか瞼が開かなかった。
「ディラント様?寝てるんですか?」
アランが近付いてくる気配がする。
「ディラント様?」
アランの気配がすぐ傍に感じてベッドが沈む。
その後頬に何か触れる感触がした。
「本当は起きてますよね、起きないんですか」
そう言うアランの声が近付いてくる。
「……起きないなら、悪戯しちゃいますよ?」
アランが耳元でそう囁いた。
その瞬間、俺は目を開けた。
アランと目が合うと、アランは悪戯っぽく笑う。
攻略対象、マジで半端ない!
「……お願いだから、普通に起こして下さい」
そう言って顔を押さえる俺の横で、アランはクスクスと笑っていた。
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