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第172話 ∥

それから暫くはフラルさんやレオンさんの指導を受けたり、ルオと遊んだり、書庫室で読書をしたりとのんびりとした日々を過ごした。 周りはというと、入学式を1ヶ月後に控えバタバタと慌ただしく動き出していた。 それは学院の寮で使うシャロウネの家具や衣装、小物などを作るのに大詰めに入っていたからだ。 伯爵様は一緒に俺のも作ると言っていたけど、俺が必要最低限のものだけで良いと言うと、伯爵様に『つまらない』とぼやかれた。 そんなつまらないと言われても、必要以上のもは本当に必要無い。 元の世界での生活の影響なのか、俺は物欲が殆どない。 新しい本を買って欲しいと頼む事はあっても、それ以外はこれといって欲しいと思うことがなかった。 俺は今、シャロウネ、リーナさん、アラン、ラジールと共に街まで来ていた。 必要最低限以外はいらないと言った俺でも、パーティー用の礼服を仕立てなくてはならなかった。 エクレール学院では入学式の後、在校生も参加する新入生歓迎パーティーが開かれる。 歓迎パーティーは何かない限りは実質強制参加だ。 つまり、俺も参加しなければいけないという事だ。 挨拶だけでも気が重いのにパーティーにも参加しなければいけないと思うと益々気が重い。 これからその為の礼服を作るために採寸やら試着やらしなければいけないと思うと本当に気が滅入ってくる。 「ディー、目が死んでますわよ」 「これからの事を考えるとちょっと……」 俺がそう言うと、シャロウネがクスクスと笑った。 服屋に着くと早速VIPルームに通された。 俺だけ別室に連れていかれて採寸やら何やらされた。 解放されたのは2時間後。 俺はその頃にはすでにヘロヘロだった。 ・・・・・・・・・ 「ディー、お疲れだね」 アランやラジールに世話をされながらソファーで項垂れていると、伯爵様がそう言う。 伯爵様が向かいのソファーに座ると、アランがすかさずお茶を出す。 俺も伯爵様が来たことで、姿勢を正した。 「……ここぞとばかりにシャーネに遊ばれました」 少し遠い目をして俺がそう言うと、伯爵様は困ったように笑った。 「シャーネはディーを構いたくて仕方ないみたいだね。その様子だと礼服も素晴らしいものが仕上がりそうだね」 「そうですね」 この世界の貴族は服装に厳しい。 礼服一つ取っても、形がどうの、色がどうのとうるさい。 俺はその手のことは無頓着で、シャロウネやリーナさんに任せている。 その為、俺が服を作るとなると二人が張り切る。 俺はさながら着せ替え人形と化する。 アランやラジールも一緒に行くけど、あの二人に口を出せる訳もなく、ただ傍観してるだけだ。 その分二人が選ぶ物は良いものばかりで、いつも素晴らしい衣装が仕上がる。 その点は二人に感謝している。

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