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第176話 ∥
入寮手続きを終えて部屋に入った俺は、早々にソファに座り込んだ。
……疲れた。
そう思って、俺は項垂れた。
馬車での長距離移動は3回目。
さすがに慣れたと思ったけど、そんな簡単ではないらしい。
今回も早々にダウンしてしまって皆に迷惑を掛けた。
これは、もっと頻繁に馬車に乗った方が良いのか?
でも馬車で長距離移動するほど邸から出ないしな……
「ほら」
そんな事を考えていると、ラジールがお茶を出してくれた。
「…ありがとうございます」
ラジールを見ると、何故か深刻そうな表情をしている。
「どうかしましたか?」
「……悪かった」
「え?」
「毎回、馬車に乗る度に辛そうにしてるのに、俺は何のサポートも出来なくて」
そうあまりにも深刻な表情で言うラジールに、俺は思わず笑ってしまった。
「そんな事ないですよ。ラジールはいつも気分がスッキリするってハーブティーを出してくれるじゃないですか。あのハーブティーはラジールが独自に用意しているって聞きましたよ」
そう言うと、ラジールが俺から視線を逸らす。
「……俺は、別に……」
そう呟いて少し照れたようにしているラジールに、俺はまた笑ってしまった。
「そういえば、アランは何処に行ったんですか?」
部屋ついて直ぐ、アランの姿が消えた。
「さぁ? …まぁ、俺はあんな奴居ない方が良いけどな」
そう言ってラジールは俺の隣に座ると、何故か腰に手を回して引き寄せた。
ラジールの顔が近くて、俺は息を飲んだ。
ラジールの顔がだんだん近付いて来て、俺は思わず目を瞑った。
「いてっ!」
目を瞑った直ぐ後に、バシッという音と共にラジールが声を上げた。
恐る恐る目を開けるとラジールは頭を押さえてて、その後ろにアランが立っていた。
アランは痛がるラジールを押し置けて俺の前にしゃがむ。
「ディラント様、大丈夫ですか?」
「……え、えっと…?」
戸惑う俺を見て、アランがスッと立ち上がった。
「…ラジール」
アランから恐ろしく冷たい声が聞こえた。
「お前、ディラント様に何した?」
そう言うアランは、表情は笑顔なのに、何故か背筋がヒヤッとした。
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