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第186話 ∥

中央に移動してスタンバイすると、一気に緊張感が高まる。 『大丈夫』と自分に言い聞かせて深呼吸をする。 ふとシャロウネを見ると、にっこりと微笑んだ。 「大丈夫ですわ、私に任せてくれれば失敗なんて絶対に有り得ませんわ」 そう自信満々に言うシャロウネに思わず笑ってしまった。 シャロウネのお陰で緊張が和らいで、ファーストダンスという大役を何とか乗りきった。 「ディー、ちゃんと踊れていましたわよ。それに、私もとても楽しかったですわ」 ダンスを終えて退場する途中、そう言ってシャロウネは満足そうに笑う。 「……シャーネが楽しかったのなら良かったです」 「また踊りましょうね」 そう言ってシャロウネはにんまりと笑う。 ……これは、分かってて言ってるな。 「……俺はダンスはしばらく遠慮したいです」 そう言うと、シャロウネはクスクスと笑った。 ファーストダンスが終われば後はほぼ自由時間となる。 食事をするも良し、ダンスをするも良し、会話を楽しむも良し。 俺は友達とお喋りをすると言うシャロウネと別れ、昼間の約束を果たす為、リオネスを探した。 リオネスを探して会場を移動した。 いや、移動しようとした。 シャロウネと別れて一人になった途端、俺は令嬢たちに囲まれてしまった。 数人の令嬢に囲まれて身動きが取れなくなる。 令嬢たちは次々にダンスを申し込んできた。 俺のダンスはファーストダンスを踊る為に入学までの2ヶ月間で習得したもので付け焼き刃にすぎない。 俺がダンスを習ったのは、シャロウネのデビュタントの時以来で、それ以降も練習していたものの、俺自身パーティーに参加する気がなかった為、あまり力を入れてなかった。 今回シャロウネと踊れたのは、俺がリードした訳じゃなくて、シャロウネが俺に合わせてくれていたから。 つまり、俺はシャロウネ以外と踊れない。 今までダンスを申込まれる経験がない俺は、どう断ったら良いのか分からなくて困っていた。 「すまない。ディラントはこの後私と約束をしているんだ」 どう断ろうか困っていると、そう声がした。 見るとリオネスが立っていた。 令嬢たちもリオネスに気付いて慌て出す。 「ディラントを解放してはくれないだろうか」 リオネスがそう言うと、俺の周りに集まっていた令嬢たちが一気に道を開ける。 その間を通り、リオネスが俺の元に来ると手を掴んで令嬢の輪の中から連れ出してくれた。

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