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第189話 ∥
(リオネスside)
会場の角でディラントと話をしていると、ディラントが疲れてきていることが見てとれた。
ディラントはこういうパーティーは殆ど参加することは無く、苦手だと話していた。
僕と一緒だから囲まれる事はないけど、やはり注目はされる。
ひそひそと話し声も聞こえてくる。
時折、ディラントやグロウ家の名前も聞こえてくるから、僕たちの事を話しているのだろう。
ディラントにも聞こえているのか、ディラントの瞳がチラチラと動いている。
慣れない場所で、これだけ周りに気を向けていれば疲れてしまうのも無理はない。
僕は気が紛れればと思い、バルコニーにディラントを連れ出した。
バルコニーには人気はなく、窓を閉めてしまえば中の声は殆ど聞こえてこない。
ここならディラントの気も休まるだろうと思った。
しばらく話した後、ディラントは空を見上げた。
今夜は晴れているから、星がよく見える。
僕もディラントに習い、空を見上げた。
そういえば、空を見上げるなんてしたことがなかったなと思う。
暗闇に無数の光が輝いていて、美しいと思った。
ふとディラントを見ると、その瞬間ディラントの姿がぼやけた気がした。
僕は慌ててディラントの手を掴んだ。
今掴まなければ、ディラントは夜の闇に取り込まれて、居なくなってしまうと思った。
……何だったんだ、今のは。
訳が解らず、僕はディラントを掴む手に力を入れた。
その瞬間、僕の手に何かが触れた。
「殿下、どうしたんですか?」
見るとディラントが僕の手に自分の手を重ねて、心配そうに覗き込んでくる。
ディラントのアイスグリーンの瞳がはっきりと僕を写している。
さっきの消えてしまいそうな感じはしなくて、僕はホッと息を吐いた。
「……すまない、何でもないんだ」
そう言うと、ディラントは首を傾げる。
そんなディラントに、僕は微笑み掛けるしか出来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ディラントside)
星を眺めていると、突然リオネスに手を掴まれた。
驚いてリオネスを見ると、どこか鬼気迫るものを感じた。
どうしたのかと聞くと、何でもないと返ってきた。
でもとても何でもないようには見えない。
今もどこか不安気に俺の手を握っている。
ただ、リオネスが何も言わないのなら、俺からはこれ以上聞かない方がいいのかもしれない。
その後も不安があるのか、リオネスはずっと俺の手を握っていた。
しばらく経つと、くしゃみが出た。
春で暖かいとはいえ、ずっと外に居ると流石に冷えてくる。
「すまない、冷えてしまったか?」
リオネスがくしゃみをした俺を気遣ってくれる。
「大丈夫ですよ」
そう言ってリオネスを見ると、普段と変わらないリオネスだった。
「……落ち着きましたか?」
「え?」
「間違っていたらすいません、何か不安な事があったんだと思って……」
そう言って笑い掛けると、何故かリオネスに顔を背けられてしまった。
何か余計な事を言ってしまったかな?
そう思って見ていると、突然手を引かれた。
「そろそろ中に戻ろう」
そう言って顔を背けていたリオネスが俺を見て微笑む。
機嫌を損ねてしまったかと思ったけど、リオネスの顔を見る限りそうではないみたいだ。
そう思って、俺はホッと息を吐いた。
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