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第212話 ∥

「俺と勝負しろ!」 シャロウネと廊下を歩いていると、突然後ろから声を掛けられた。 見ると、オルトが仁王立ちしていた。 オルトから勝負を挑まれて約一週間、性懲りもなくオルトが突撃してくる。 今回は廊下で申し込まれた為、オルトの大きな声が周りにいた生徒の視線を集めた。 何度も断ってるのに、本当に懲りないな。 そう思って、俺はため息をついた。 「何度も言ってますが、勝負をする理由がありません」 そう言うと、オルトが少し傷付いた表情をした。 「一回だけで良いんだ。俺と勝負をしてくれ」 勝負を"しろ"から勝負を"してくれ"に変わった。 何故オルトがここまで戦いたがるのか分からない。 ただの戦闘バカって訳でも無さそうだ。 他に理由があるのか。 オルトの父親は騎士団長をしている。 かなり強い人だと噂で聞いた事がある。 そんな人の息子ってだけでも注目されるだろう。 もしかして、その期待に重圧を感じてるのかもしれない。 「ディー、一度だけお相手してさしあげても良いのでは?」 見かねたシャロウネがそう言ってくる。 「……でも」 「言ってはなんですけど、オルト様がディーを追い掛けるようになってから色々と問題が……」 そう、オルトは最初に教室に来た日から毎日、休憩時間の度に教室に押し掛けて来るし、最近では生徒会室にまで押し掛けるようになってリオネスやロンドに追い出されている。 ただ、その度に手を止めなきゃいけなくて、作業スピードに問題が出ていた。 「それに今のオルト様、どこか思い詰めているように見えますの」 そう言ってシャロウネはチラッとオルトに視線を向けた。 俺もそれに釣られてオルトを見る。 オルトは少し視線を下げて、じっと俺の返答を待っていた。 そんなオルトを見て、俺はため息をついた。 「…分かりました、勝負しましょう」 オルトに向けてそう言うと、オルトの表情が一気に変わった。

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