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第213話 ∥
俺は勝負をする為にオルトとシャロウネと一緒に演習場に向かった。
演習場は学院内にある剣術や体術の訓練をするための施設。
普段は騎士科の生徒が訓練をする為に使っている。
俺たちも剣術や体術の授業の時にはこの演習場を使う。
といっても、俺はまだ武術の授業はしてないから、この演習場に来たのは初めてだ。
中に入ると、球場くらいの広さがある空間が広がる。
物は置かれてなくて、隅の方に木剣などの必要な道具が置かれていた。
建物の中といっても屋根はなく屋外になっている。
2階には見学出来るように客席が設けられていて、俺の世界でいう闘技場みたいな造りになっていた。
演習場には騎士科の生徒が数名居て、木剣で打ち合いをしていた。
ああいうのを見ていると少しウズウズしてくる。
俺たちは騎士科の生徒とは反対側の空いているスペースに移動した。
オルトは木剣を取ってくると言って走っていった。
俺もその間に準備をする。
制服のジャケットとタイをシャロウネに渡し、シャツのボタンを2個ほど外して首もとを開ける。
腕捲りをして動きやすいように着崩した。
しばらくすると、オルトが戻ってきた。
その手にはロングソードを模した木剣を2本持っていた。
……しまった、先に言っておくべきだったな。
「すいません、言っておくべきでしたね」
俺は剣が扱えない事をオルトに説明した。
「……そうか、では俺も素手で相手をした方がいいか」
「オルト様は木剣を使っていただいて大丈夫です」
「……しかし」
オルトが悩みだす。
やっぱり、騎士として素手相手に武器を使うのは気が退けるのかな。
「俺が剣を持ったら逆に勝負になりませんよ?それに、俺はこっちの方が得意なんです」
そう言ってこぶしを握ってみせた。
「オルト様は体術より剣術の方が得意ではないですか?素手で勝負して負けた時に、体術は苦手だと言い訳にしますか?」
そう言うとオルトから少しピリッとした空気を感じた。
こういう言い方をしたのはわざとだ。
オルトは脳筋で一直線だけど、その男気は本物だ。
不得手な方法だったから負けたなんて言い訳、オルトは最も嫌うだろう。
「分かった。では遠慮なく使わせてもらう」
そう言ってオルトは木剣を掲げた。
オルトが離れて所定の位置につこうとした時、シャロウネが待ったを掛けた。
「オルト様、一つ宜しいでしょうか?」
そう言ってシャロウネがオルトに歩み寄る。
「ディーとの勝負は認めましたが、危険な行為はやめて頂きたいのです」
そう言うシャロウネにオルトの顔色が変わった。
「お互いに怪我の無いよう」
オルトの顔から血の気が引いていってる気がした。
「ディーに怪我をさせないよう、"くれぐれも"よろしくお願いいたしますね?」
シャロウネがやたらと『くれぐれも』を強調する。
俺からはシャロウネの表情は見えない。
でも俺は、青ざめてコクコクと頷くオルトの表情から何となく察した。
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