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閑話 シャロウネの日常

私は王立エクレール学院の一年生として入学した。 一年は離ればなれになると思っていた最愛の義弟、ディラントも一緒に。 入学して3ヶ月、漸く学院生活にも慣れてきた。 「シャーネ、では俺も行きますね」 そう言ってディーが笑顔を見せる。 これから男女別の授業。 私とディーは授業を受けるために、別々に違う教室に向かった。 「ディラント様、とても素敵ですわ」 私の横でうっとりと顔を赤らめてる女性は、学院に入学してから出来た友人のナタリー様。 ナタリー様はディーの事を気に入っているものの、それは好意ではなく、本人曰く観賞用だと言う。 ディーがリオネス殿下やロンド様、オルト様に囲まれているのが良いらしい。 そこは私にはよく分からない。 「ディラント様を狙っている令嬢は多いですわよ」 そう言ってナタリー様がニヤリと笑う。 「あら、ディーはそう簡単には渡さなくてよ?」 ナタリー様と談笑していると、前方から厄介な方が現れた。 「あら、シャロウネ様。ごきげんよう」 そう言ってその方は持っていた扇を開いて口元に寄せた。 「ごきげんよう、ロザリア様」 ロザリア様が少し辺りを見回す。 「今日はディラント様は一緒ではありませんのね」 「男子は別の授業ですから」 恐らく、ロザリア様はディーに気がある。 でも、私の中でロザリア様だけは有り得ない。 「……そうですか、残念ですわね。ディラント様は見目だけは麗しいですから」 ロザリア様が『だけは』と強調する。 「生粋の伯爵家出身の方なら、わたくしのお相手にと思いましたのに」 そう言ってロザリア様は頬に手を当ててため息をつく。 貴族主義。 純粋な貴族の血筋が一番という考え方。 そういった考えを持つ貴族は少なからず存在する。 殿下がディーの事を友人と公言している為、多少は和らいでいるものの、スラム出身のディーに対して貴族主義の考えを持つ方たちからの風当たりは強い。 「そうですわね、ディラントに貴女のお相手は難しいと思いますわ」 私がそう言うと、ロザリア様は勝ち誇ったような表情をする。 何を勘違いしているのでしょうね。 「ディラントに貴女のお相手は似合いませんわ。貴女にはもっと相応しい方がいらっしゃいますわ」 そう言うと、ロザリア様はどこか満足気に去っていった。 ……ディーに貴女は合わないと言ったのだけど、あれは伝わっていませんわね。 「ロザリア様、絶対意味分かっていないですわよ」 私たちのやり取りを見ていたナタリー様が呆れたように言う。 「あの方は自分の良いようにしか受け取りませんから。でもこれでディーに近付かないで頂ければ良いのですか……」 「でもシャロウネ様、姉として義弟を守りたいと思うのは分かりますが、少々過保護ではありませんか?」 ……守りたい、か。 「それは少し違いますね。ディーは人の好意に疎いんです」 そう言うと、ナタリー様が少し考える素振りをする。 「確かに、そんな節がありますわね」 「おまけにディーは私より容赦がありません」 ナタリー様が頷く。 「私が守っているのは、むしろお相手の方だと思うのです」 そう言うと、ナタリー様がきょとんとしてしまう。 その後、ナタリー様は笑い出した。 「確かにその通りですわね」 そう言ってナタリー様は笑い続けた。 過保護なのは否定しない。 私は出来るだけ、ディーと一緒に居たい。 『…だって、ディーは近いうちに嫌でも離れていってしまうんですもの』 「シャロウネ様?何か仰りましたか?」 「……何でもありませんわ」

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