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第225話 ∥

(リオネスside) 「ディラント、それから離れろ!それは魔獣だ!」 獣を庇うディラントにオルトが叫ぶ。 「オルト、落ち着いてください。この子は大丈夫ですから」 ディラントがそう言っても、オルトは退く気がないみたいだ。 そんなオルトに、俺はため息をついた。 「オルト、剣を納めろ。ディラントの言う通り、その魔獣は安全だ」 俺はもう一度ディラントの後ろに居る魔獣に目を向けた。 真っ白な毛並みに深紅の瞳。 「ディラント、それがこの前話していた魔獣だな?確か、名前はルオだったか?」 「殿下はこの魔獣を知っているのか?」 オルトがまだ警戒しつつ聞いてくる。 「ディラントから話に聞いていた」 そう言って頷くと、オルトがもう一度ディラントたちに視線を向ける。 「…その魔獣は本当に何もしないのか?」 オルトがそうディラントに聞く。 「大丈夫です。今までこの子が人を傷付けた事はありません」 『とてもいい子ですよ』と言って、ディラントはルオを撫でる。 ルオも撫でられるのが嬉しいのか、目を細めてディラントに身を寄せた。 その様子を見てオルトも納得したのか、ようやく剣を納めた。 ロンドも既に警戒を解いていて、僕は二人の間を縫ってディラントとルオに近寄った。 「すまない」 僕が謝ると、ディラントはきょとんとした後ニコッと笑った。 「大丈夫ですよ、二人は当然の対応をしただけですから。それにルオも威嚇してしまってましたし」 そう言ってディラントはルオを気遣うように撫でる。 「突然剣を向けられれば誰だって警戒する」 『問題ない』と僕が言うと、ディラントは安心したようにまた笑った。 ……それにしても。 僕はもう一度ルオに視線を向けた。 「話に聞いていたが、ルオは本当に美しいな。 ……触ってみても良いだろうか?」 「大丈夫だとは思いますけど……」 そう言ってディラントがルオに視線を向ける。 そうするとルオもディラントを見つめた。 「ルオ、殿下が触っても大丈夫?」 ディラントがルオに伺いを立てる。 そうすると、ルオが今度は僕を見つめてきた。 じっと見てくるルオに、僕は妙に緊張した。 しばらくすると、ルオがスッと頭を下げる。 ルオの行動の意味が分からずディラントを見ると、ディラントがニッコリ笑う。 「触っても良いそうです」 そう言われて、僕はもう一度ルオに視線を向ける。 僕は待っているように頭を下げるルオにそっと手を伸ばした。 流石に魔獣に触れるのは初めてで恐る恐る触れると、その瞬間フワッと手が沈んだ。 そのまま撫でると、サラサラの毛が指を抜ける。 「これは…ずっと触っていたくなる手触りだな」 そう僕が呟くと、 「モフモフ、気持ちいいですよね」 そう言ってディラントが満面の笑みを見せる。 その笑みに、僕は思わず顔を背けてしまった。

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