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第229話 ∥

(リオネスside) 「……すごいな、ディラントの集中力は」 僕は前に座っているディラントを眺めていた。 と言うより、この馬車に乗っている全員の視線がディラントに向いていた。 避暑地に向かうべく、王宮を出発して数時間が経った。 最初は物珍しさからずっと窓の外を眺めていたディラントも同じ景色に飽きたのか、今は持参していた本を読んでいた。 避暑地へは王家の馬車を使っていた。 6人は余裕で乗れる大きさで、ゆったりとしていた方が馬車が苦手なディラントにも良いと思った。 そこに僕とディラント、シャロウネ嬢とロンドとルオが乗っていた。 オルトは馬が良いとのことで、馬で着いてきている。 「……いつもこんなに集中しているのか?」 ディラントは本を読み始めた途端、殆ど動くことなく目だけが文字を追っている。 「そうですわね、放っておくといつまでも読んでいますわね」 とシャロウネ嬢が頬に手を当ててため息をつきながら言う。 「学院の図書館でも閉館時間に気付かず読んでいるな」 とロンドが呆れたように言う。 どうやらディラントは一度集中すると時間も忘れてしまうらしい。 ルオもディラントが本を読んでいる間は構って貰えないのが解っているのか、ディラントの顔をじっと眺めて大人しくしていた。 僕はディラントの新しい一面を知れて嬉しい半面、心配でもあった。 「ルオ、僕と遊ぼうか」 ディラントに構って貰えなくて退屈そうにしているルオに声を掛けると、ディラントの方をチラッと見て僕の方に寄ってきた。 これは、本当はディラントが良いけど仕方なくってことろかな。 「ディラントが本を読み終えれば遊んで貰えるから、今は僕で我慢してくれ」 そう言って頭を撫でると、ルオは返事をするように『グゥ』と鳴いた。

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