2 / 174

第2話

 アルファは青年の死骸をそっとベッドに横たえた。  引き裂いた身体を綺麗にして、家族に帰してやらねば。  多額の金も払ってやろう。  このベーターが一生かかって稼げないほどの金を。  例え一時であっても。   命がもたなかったとしても。  このベーターはわずかな間、アルファの番だったのだから。  その肉は、アルファを楽しませてくれたのだ。  アルファは優しく死んだ青年の額にキスをした。   番のオメガがいた時はそうしていたように。  可愛いオメガだった。   毎晩可愛がり、子供も生んでくれた。  全員ベータだったが、可愛い。   アルファでも、なかなかアルファの子供を得ることは難しい。  生まれたとしても、ベータ以外は手放さなければならないから、それで良かったのかもしれない。  アルファはアルファ。  オメガはオメガで集団で育てられるのだ。  でも、可愛いオメガは死んだ。    殺した。  番のないアルファに狙われたりしなければ。  犯されなければ。  殺さずにすんだものを。  首を噛まれたオメガはそのアルファにしか発情しないが、他のアルファと性交できないわけではない。  自分だけのオメガが理想だが、オメガがいなければ、自分に発情しないオメガであってもアルファとしては構わないのだ。   ベータを犯して殺すよりはいい。  もちろん、オメガの取り合いは禁じられている。  訴えたなら、間違いなく勝てるし、相手をアルファ用の刑務所に送り込める。  だが、アルファはオメガをとられたなど、認めたくはない。  だから。      訴えることはない。  とられる位なら殺すし、他のアルファに自分のオメガが犯されても殺すのだ。  その後、アルファ同士で法律以外で互いに納得のいく決着はつけることになるが。  残念ながらこのアルファは、オメガを狙われ、そして争い、敗れかけ、奪われた。  だから殺して喰った。    仕方なかった。  可愛い可愛いオメガだったからこそ。  胸が痛んだ。  今でもいたむ。  子供達がオメガを喰ったその日から、遠ざかってしまったが、逆らうことはないし、わかってもらえないのは仕方ない。  所詮、ベータはベータ。  アルファではないのだ。  だが、早く。  早く。  代わりのオメガを見つけないと。  発情期で耐え難い時だけベータを犯しているが、そうじゃなくても、アルファの性欲は強い  早く見つけないと。    人体改良の技は成功例が少ないため、オメガが生まれるのを待つしかオメガを増やす方法はない。  今施設で育成中の番候補のオメガが早く性交可能になれば。   もう少し待つしかない。  オメガの取り合いで揉めたなら、また順番が遠ざかる。  人の所有しているオメガは狙わずに、ベータを犯すしかない。  仕方がない。  金はかかるが。  賠償金は必要だ。  アルファのために、ベータもオメガも存在してくれているのだから、ちゃんと贖ってやらねば。    アルファはため息をついた。  ホテルの部屋に特殊清掃を呼ばないと。  これはホテルの料金には入っていない。  部屋の内線が鳴った。  不思議に思った。  こちらから連絡するまで構うなと言ってあるのに。  アルファの命令は無視されることはない。  それが守られないのは。  他のアルファからの命令か?  内線の受話器を取った。  「オメガを抱きたくない?」  甘い声。  声だけなのに。  もう勃起していた。    これはオメガだ。  オメガ。  愛しい蜜のつまった愛玩具。  「どこにいる」  することしか考えられない。  オメガ。  オメガ。  オメガが喰いたい。  ベータを殺してしたところで、本当の意味では代わりにはならないのた。  「すぐに行くから」  ドアをあけて。  そのオメガが言った。  だからそうした。  ドアを開けて。  入ってくるのを招きいれた。  オメガは甘い香りをしていた。  涎が止まらなくなる匂い。  ベッドの上の血だまりと、ベータの死体を忘れた。  その血と内臓の臭いも。  血にまみれたアルファをみて、そのオメガは微笑んだ。  怯えることなく。  ホテルの制服を着ていた。  「しようよ、ねぇ?」  オメガは部屋の真ん中で自分で制服を脱ぎ捨てていく。  まだ若く。  発情期が来て数年の少年に見えた。  15はやっとこえたかどうか。    制服はブカブカだった。    でも、アルファは何も気にしなかった。  管理されているはずのオメガがなんでこんなところにいるのかも。  死体を見ても平然としていることも。  首筋にもう他のアルファの印、噛まれた跡があることも。    ただ。  このオメガを。  喰らいたかった。    

ともだちにシェアしよう!