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第7話

 少年は出会った時も血塗れだった。    首から血を流して死んでいるアルファに跨がり、腰を振っていた。     タクはたまたま。  たまたま、  運悪く、   その場に出くわしただけだった。  バイクでツーリングしていた山の中。  不自然な場所に駐車していた高級車。  そんな巨大な車はアルファ用であることは知っていた。  知っていたのに、近寄ってしまった。  不自然すぎたから。  こんな山奥のこんな場所に?   アルファが?  バイクを停めて覗き込んでしまっただけだ。  そして、開いていた窓から見えたのが、殺されたアルファと、その死んだアルファの性器で楽しむ少年だった。     アルファは陰茎に骨があるから「死んでからも使える」、そう教えられたのはその後だ。  車にいたのはアルファと少年だけだった。  それはアルファが殺されていることも含めて奇妙だった。  支配者であるアルファは一人で出歩くことはない。  その特異な姿を晒すことはなく、大きな車で移動する。  めったにベータの前に姿をあらわすことはない。  アルファに仕えるベータ達くらいだろう、アルファを見ることがあるのは。  こんなところで。  車を止めてオメガと言えど二人きりでいるはずがない。  ないのだ。  彼らは異形の支配者なのだから。  ベータの作った政府の上にある、本当の支配者であるアルファ。  その支配の構造がどうなっているのかはタク達平民ベータは知ることはない。  ただ。    アルファに支配されていることと、それが良いことだということは知っている。  アルファに気まぐれに殺されたりすることはあったとしても。  アルファに支配される前の、ベータ達、人間だけで動かしていた世界より、今の世界の方が平和で豊かであることには間違いなかった。  長い間、戦争も紛争もテロもない。   アルファに従っているのだから人間同士で争う必要もないのだ。   極端な貧富の差もなくなり、アルファ達はベータ達をうまく動かしていた。  うまくいってるのだ。  この世界は。  ベータはアルファに従えばいい。  愚かなベータ自身が欲にまみれて、互いを喰らいあう世の中よりは、アルファに支配された世界の方が幸せなのだ。  戯れにどうしても足りないオメガの代わりに犯し殺されるベータが出たとしても。  仕方ない。  仕方ないのだ。  だってベータは、アルファよりも劣っているのだから。  オメガが。  アルファに捧げるオメガが・・・足りないのが悪いのだ。  人類はアルファを恐れ崇めはしても、その諸行を咎めることもなく、全てを受け入れていた。  人間には有り得ない肌の色、金や銀、真紅や深青の肌、複眼や多腕や多脚、翼や触角、人間とは思えない姿さえ、優れた者の証として尊んで。  自分達を治める神として。  でも。  その神は。  オメガに殺され、その死体をオメガの快楽のために使われていた。  そんなことは。  有り得ないのに。  オメガは気持ちよさそうに身体を揺らして達した。  ベータの男性のモノに似た性器から、白濁か吹きだして、背中をそらして、痙攣して。  その少年の性器が男の性器ではないとわかった。    もっとイヤらしいものだ。  だって、舐めたくなった。  その白濁を味わいたいと思った。  その痙攣する身体も、男の身体ではないと思った。  だって、貪りたいと思った。  その尖った乳首を嬲りたかった。    匂いが。  窓から洩れる匂いが。  これが。  オメガのフェロモン。  アルファ以上にベータが見ることもない存在、オメガなのだとわかった。  歯がガチガチと鳴った。    タクは勃起していた。  こんな欲望を誰かに感じたことはなかった。  怖い。    怖い。  これは何。  こんな強制的な性欲を知らない。    窓の外で震える暇があるなら、逃げるべきだと、違う本能は言っていた。   生存本能の方が。  アルファが殺されている。  それがどれほどの異常事態なのかを教えてくれてた。  でも。    逃げられなかった。  そして、オメガが窓の外を。  タクを見たのだ。  「・・・見た?」  まるでイタズラを見つかった子供みたいにオメガは。  少年はタクに笑いかけたのだった。  それは。  子供の笑顔で。  タクは余計に混乱した。        

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