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第17話
数年前のこと。
「首都に住むアルファが多いが、基本アルファは領地を持ってる。オレ達はあくまでもアルファの土地を間借りして、アルファの支配の下で自治をしているにすぎない。それはわかるな?」
センターから逃げ出してたオメガの少年に、抑制剤を打ちながら「医者」は言ったのだ。
少年は首を振った。
オメガにはそういったことは何も教えられない
アルファのためにオメガがあることや、アルファに見合う教養としての教育以外は。
少年は疼く身体を医者を含む3人のベータ達で鎮めたところだった。
もの足りないが、まあ、これで抑制剤を使えば落ち着くだろう。
医者はまだ話し、動けるが他の二人は亡骸みたいになってる。
「センターから逃げ出した君を保護したのは協力して欲しいからだ。オメガの協力者は君を逃せば二度と手に入らないだろうからね」
抑制剤がききだして、医者も落ち着いて話が出来るようになってきた。
オメガのフェロモンは麻薬並みに効くからだ。
「保護、ねぇ。俺にむしゃぶりついて犯しまくることかよ」
少年は鼻で笑う。
誘ったのは少年なのだけど。
コイツつらの簡単さは笑えた。
オメガのフェロモンがアルファもベータも愚かにすることを少年が理解した瞬間でもあった。
だが少年は満足していた。
この身体は自分が自由に出来る自分の身体だ。
アルファの持ち物じゃない。
ベータ達とのセックスは快楽以上の意味はあった。
「ベータもアルファも。オメガには勝てない。だから我々には・・・君が必要なんだ」
医者は、服さえ着ないまま、まだ誰のものかもわからない精液で汚れた身体のまま、真面目な顔で話し始める。
少年もわかってきた。
アルファが許せないのは、少年だけではない。
ベータの中にも、アルファを消し去りたい連中がいるのだ。
それは気に入った。
そんな無茶を願うことが気に入った。
アルファから世界を奪い取ろうとしているのだ。
アルファより劣っているベータが。
「もともとは我々の世界だ」
医者は言った。
「アルファが現れなければ滅んでいたのに?」
オメガは面白そうに言う。
人類達は殺し合い、奪い合い、一部の者のために世界を使い、滅びかけていたのは今なら誰でも知ってる。
アルファに支配され、管理されることによって。
世界は平穏を取り戻したのだ。
アルファ達は自分達の支配ゲームを人類とは違って理知的に行い、自分達の命以上をそこに巻き込まないし、人間達に自分達の自治をまかせてさえいる。
世界は。
アルファに支配されてからの方が平和で豊かになったことは間違いない。
「それでも、だ」
医者は言い切った。
「我々はちゃんとほろびるべきだったんた。バケモノの子供達に支配されて生き延びるくらいなら・・・まあ、これはオレの意見だけどね」
医者の言葉は少年には気に入った。
ちゃんと滅びるために、アルファを消し去る。
それは。
それは、なんていい、考えだ。
「あくまでも、オレの意見だぞ。組織としては・・・化け物の支配を離れて、再び人類の世界を手に入れるということを目指してる」
医者の言葉に少年は欠伸した。
それは面白くない。
だが。
確かに。
アルファが現れるまで、滅びに向かって進んでいることを止められなかった人類が、アルファがいなくなったからまともになるとはおもえない。
「協力するよ」
少年はあっさり決めたのだ。
医者はわらった。
少年はこの医者は気に入った。
世界が滅びることを望むものは。
誠実であるとおもえたから。
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