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第18話

 匂いがした。  涎がたれる。  甘い匂い。  オメガの匂いだ。  発情した。  それは、借りた屋敷の寝室から匂ってきた。  自分の番のオメガがアルファを追ってきたのか?  領地から?   一人で?  その20本の脚をもつムカデに似た下半身のアルファはそう思った。  このアルファはアルファには珍しく、領地に住むアルファなのだ。  多くのアルファが領地ではない首都に住んで、権力ゲームを楽しんでいるのが、多少の遅れをとっても領地にいることを好んだ。  それはなかなかオメガを手にいれられなかったことも関係あるかもしれない。  どのアルファがどんなベータを欲望のために使っても罪に問われることはないが(アルファの家族であるベータは別だが)、かといってそれなりの処理は必要だ。  後処理が。  アルファに使われた、いや、花嫁になったことを誇りに思えと、持参金という金を送りつけるアルファもいるが、もっとわかりにくく、ベータを必要以上に騒がせない方法を好むアルファもいる。  このアルファは領主としてベータに配慮したのだ。  抱いて殺したベータの家族に多額のお金は入るが、その理由がアルファに抱かれたことではなく、他の理由になるようにしてやったのだ。  交通事故だとか、突然の病気だとか。  アルファに一夜愛されて死ぬよりは、受け入れやすい理由を用意してやったのだ。  「仕方ない」と思える方が、失ったことに耐えやすいだろうという恩情だった。  そのためには領地の方が工作がしやすい。  だから、領地で発情期の度にベータを犯すように心がけていた。  このアルファにかぎらずアルファは情け深いので、発情期以外で仕方ない時以外では、ベータを抱くような真似はあまりしない。  オメガを得るまでは出来るだけ限り耐えるようにはしているのだ。  だが今日のように番のオメガが領地に残してきて、なんだかそういう気分の時は別だ。  久しぶりにベータを見繕わせて、連れて来させようかと思っていた。  アルファのために、ベータを捕まえてくる機関は存在する。  なんだって存在する。  アルファのためになら。  事後処理も完璧だ。  だが、オメガの匂いがする。  オメガの。  オメガがいるならベータなどいらない。  オメガとベータでは比べものにならない。  だが。  この匂いは、番のオメガの匂いじゃない。  そして、何より、オメガはアルファに黙って領地の屋敷から出てくるようなことはしない。  オメガはアルファに従うものだからだ。  じゃあこれは?  この匂いは?  ベータを引き裂きながら抱くために、屋敷内部の人払いをさせたところだった。  ベータの気持ちを汲んいるから、ベータを抱いて殺して、そして、その始末を業者が終えるまでは屋敷内部にベータを置かない。  同胞が殺される現場にいたくはないだろうという配慮だった。  アルファはアルファが殺される場所に居合わせても平気だが、ベータはそうではない。  ベータに配慮してやるのは支配者としての責務だと心得ていた。  誰もいない、これから命令して連れてこられるベータ以外は入ることのない屋敷の中に、オメガいる。  それは間違いようもないオメガの匂いだった。  ガチガチに股間が勃ちあがる。  涎を垂れ流していた。  オメガ。  オメガ。  可愛い自分のオメガではなくても。  オメガだ。  喰いたい。  喰いたい。  その欲求に逆らえるわけがなかった    

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