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第30話

 そのオメガは髪を解かされ、衣装を纏う。  アルファに会う時には脱いでベールだけになるが、でも着て、嫁ぐことが大切なのだそうだ。  まだ幼い頃から「私のものだ」と囁いてきたあのアルファの元に嫁ぐ。  ほぼ人間の形態のアルファだが、角があることと、後頭部にまである多眼の数は30個なところが人間とは違うアルファだ。  肌の色も薄いオレンジで人間に近い。  「千里眼のアルファ」と呼ばれるアルファだ。  本当は禁止されているのに、まだ幼いオメガの穴を舐めたり、その胸を吸ったり、口の中を舐めたりしたのはこの人だ。  まだ幼いオメガに話ならともかく、触れることは許されてないのに。   センターに将来の花嫁候補を見繕いに来ることは許されいて、監視下での会話くらいも許されている。   全てが監視されているセンターで、千里眼のアルファだけはどこのどのタイミングならカメラに写らないのかをわかっていた。  「お前は私のモノになるんだからな、先に味をみてもいいだろう」  そう言って、丹念にあちこちを舐められた。  それ以上のことはされなかったけれど。  でも。  じっくりと、舐められた。  あちこちを。  怖かった。    もしこの人が番にならなければ、番以外に身体を許したことになってしまう。  そんなの許されない。    でも誰かに言うことも出来なくて。  そのアルファが訪れる度、逃げて隠れた。    でも、絶対に見つけられて。  舐められ、教え込まれてた。    誰のものなのかを。  「ここに挿れる、私のを。早く大人になれ」  アルファは甘く囁いた。    決してやめてくれなかったけれど。  「他の子にもしてるの?」  聞いた。  ここはオメガの工場だから。  幼い嫁ぐ前のオメガがいるところだから。  「まさか。お前だけだ」  アルファはそう言ったけれど、それは本当かわからない。  このアルファにだけは監視カメラは意味を成さないのだから。  でも。    本当に娶ってくれたので安心した。  番になることを希望するアルファの中で、彼を希望するしかなかった。  アルファ同士の争いが、今回は殺し合いにまでは至らず、オメガは嫁げることになった。  オメガ自身が、強く千里眼のアルファを希望していたのは大きい。    「絶対に切るな」と千里眼のアルファ言われた長い髪を綺麗に編まれた。  どうせ、解かれて乱されるのだけど。  乱れた髪の中にいるお前がみたい、そう囁かれてきて、今日とうとうそうされるのだとわかった。  穴が疼く。  数日前、初めて発情期を迎えた。   穴に指を挿れて人前構わず自慰に狂った。  薬を打たれるまで、そこに何かで埋めてほしくて仕方なかった。  舐められ教えてられた快楽とは、桁が違った。   自分が壊れてた。  今効いてる薬が切れたらあの状態になって。  そして、アルファが現れて。  自分を貫くのだ。    アレで。  もう見たことはあった。  触らせられてもいる。  「【千里眼】様はお喜びですよ。ずっとあなたが成長するのをまってられたんですから」  年老いたオメガが世話をしてくれる。  センターでオメガの世話をしてくれるのは、耐性をつけたベータと、年老いたオメガだ。  アルファはオメガに執着するため、死ぬ時にはオメガを殺してでも離さないが、それでもアルファが殺されたり、子供が産めないことがわかっていてセンターから出されない場合など、様々な事情で一人になることがある。  アルファが番のいるオメガを奪うこともあるが、奪ったところで番にはなれないため、センターに返されることもある。  どうのこうの言っても。    番のオメガこそがアルファには至上なのだ。  そんな一人になったオメガはセンターで働く。    他に行き場などないからだ。  センターでは。   オメガは守られるから。     一応。  舐められたりはしたけれど、一応。   千里眼は例外。  自分も帰ってくるのだろうか。    オメガは思った。    【千里眼】はアルファらしく、争いや冒険が好きだ。  幼いオメガに手をつけたり、いろんな手をつかって他のアルファに諦めさせたり。  そんなアルファは長生きできるだろうか。    オメガはため息をついた。  オメガの運命なと。    アルファ次第なのだ。  「嫁ぐ日にため息なんて」  と叱れたが、色々あってここにいるオメガは、それ以上責めたりはしない。  「水のようにね」  優しく諭された。  センターで育つオメガがおしえられること。  「葦のように柔軟に、水のように形を変えて」  オメガの生きるための心のあり方。  アルファ次第。    オメガはただ出来ることを精一杯健気に生きていく「しか」ない。      頷いた。  恨まず、妬まず、全てを現実として受け入れて。   水のように生きるのだ。  少なくとも自分のアルファは。     生死をかけて自分に執着してくれるのだから。  真っ白な衣装とベールを纏う。  身体が熱い。    屋敷につき、部屋で横たわる頃には抑制剤は切れて、アルファが部屋に入る時にはオメガの香りが部屋に満ち、アルファは喜んでオメガを貫くだろう。  「綺麗ですよ。千里眼様はお目が高い・・・あの方なら死ぬまでお前を守ってくれるでしょう」  年老いたらオメガは言った。  オメガは頷く。  死ぬまで守ってくれる、もしくは、アルファが死ぬ時には連れて行かれるかはわからないけれど。  アルファの中でも、千里眼のオメガへの執着は間違いなく強い。  「しばらくは怖くて、辛いかもしれない。でも、良くなるからね・・・」  年老いたオメガの説明が夜のことだとわかって、オメガは顔を赤らめた。  ちゃんと教育はされて、頭では知っている。  でも、あの発情期の自慰よりもすごいことになるのは確かに怖かった。  「良い子をね」  年老いたオメガはオメガを抱きしめた。  「出来れば、オメガでも、アルファでもない子を」  年老いたオメガがかすれた声で言った。  このオメガがここに来た事情は知らないが、オメガの子供を産んだらしいとはきいていた。  オメガとアルファを産んだのなら、センターに連れて行かれ、その後を辿ることさえ許されない。  恐ろしい話だが、番のオメガが自分の子供や兄弟である可能性はあるし、奪った他人のオメガが自分の母親である可能性もあるのだ。  「僕のために祈ってて」  オメガは年老いたオメガに頼んだ。   アルファもオメガも生みたくなかったから。 アルファは生まれるとき、母親を殺す。 オメガを出産すると妊婦の60パーセントは死ぬ。 子供を産まなければならないのなら、その2つは避けたかった。    鐘が鳴った。  出て行く儀式だ。    ここから先は、番のアルファだけが頼りだ。    友達も誰もいない。  いるのはアルファだけ。  なんて不安なんだろう。  でも、水のような心で、オメガは準備のための部屋を出た。  センターを出る儀式の後、アルファの屋敷へ向かい、そして、アルファに抱かれるために。

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