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第40話

 少年は少女のようなオメガを抱えて物陰に隠れた。  アルファ同士の争いに巻き込まれ死ぬ気はない。    隠れる際、自分から脱ぎ捨てた自分の服も拾っていく。  そして、たっぷり犯され、まだ夢見心地なオメガを抱えて座りその頬を叩いた。    これから大事なことを聞かないといけない。  これだけは本人に選ばせないといけない。  「もっとぉ・・・」  オメガは少年の首に腕をまわして甘えてきたが、今はそれどころじゃない。  まず少年は着ていた服のポケットからケースをふたつ取り出した。   そのケースの中にある注射器を自分に打つ。  何度もアルファに中に放たれたおかげで、それなりには収まっている。  だからすぐ効くはずだ。  そして、腕の中の蕩けきったオメガの頬をさらに強く張った。  正気に戻ってもらわないと。  痛みよりも、少年の眼差しにオメガは我をとりもどした。    「ボク・・・ボク?」  汚れきった身体。  消えたウェディングドレスやベール。  現状は大体認識したはずだ。   「時間がない。選べ。お前自身でな。お前はアルファと性交し、番になった。つまり、お前は妊娠した可能性がある。普通は子供をつくる時期はアルファが決めるから、性交した後に抑制剤を打つか打たないかもアルファが決める」  少年の説明の意味はオメガなら誰でも知ってることだ。  抑制剤には妊娠させない効果もある。  発情し、性交した後に使えばたとえ受精した卵子があったとしても、着床しない。  性交は可能だとしても、まだ出産は難しい幼いオメガが成長するまで、アルファは性交した後、抑制剤をオメガに投与する。  オメガを出産で殺しては意味がないからだ。  オメガがいつ出産するかも、アルファが決めるものなのだ。  「お前は番になった。つまり、あのアルファ以外の子供はもう産めない。つまり、もし、妊娠していたのなら、これがお前が子供を産む最後の機会になる。あのアルファは死ぬからだ。だから、選べ。この抑制剤を打つか?それとも、もしかしたら妊娠している子供を産む可能性を残すか」  少年は選択をオメガにせまった。  少年は一気に正気をとりもどす。  そんな、そんなことをすぐに決めろと?  オメガに選択肢は与えられてこなかった。  アルファが決めるものだった。  子供をいつ産むかは。  オメガには子供を産まないという選択肢もなかった。  アルファは子供を産ませたがるから。  番にされて。    その結果アルファが死んで、子供が産めなくなったとしても、それは仕方ないことだとオメガ達は思っていた。  オメガに選べるものなど何もない。    「ただし、お前の子供がアルファなら、殺す。それだけは許されない」  少年はきっぱり言った。  アルファが生まれる可能性はアルファとオメガ同士でもなかなかない。     でも、少年は嘘だけはつくつもりはなかった。  少年の目的は、全てのアルファを撲滅すること。  「今、すぐ、選べ!!時間がない!!」  少年は選択をせまった。  オメガは怯えた。   だってオメガは選択など許されてこなかった。  候補のアルファを「希望」することくらいは許されてきたが、アルファ以外を選ぶことなどは絶対に許されないし、何より、アルファに嫁ぐことは決定事項だった。  その身体に異変でもないかぎり。  異変があったとしても、アルファに望まれば嫁ぐこともある。  子供が産めないとしても、番にされたオメガはいる。  水のような心で生きていけ。  何もかもを受け入れて。   そう生きていくのだと教えられてきたのに。  ただ流れるように。  「お前が選べ!!」  少年は迫った。  オメガは。  オメガは。  生まれて初めて選択した。  間違いかもしれない。  でも。  でも。  「子供・・・要らない・・・」  泣いて言った。  そのために生まれてそのために育てられて、そのために望まれて。  生涯籠に閉じ込められ、愛玩され、思いのままにされる。  隠していた、見ないようにしていた本音が浮かび上がったのだ。  子供、なんか。   うみたくなかった。    そのためだけに。  生きたくなかった。  「注射、打ってぇ・・・」  オメガの言葉に少年は笑った。  それは優しいといってもいい笑顔だった。  「お前は、ここから【本当】に【生きる】。お前は人生を【選んだ】」   少年はそう言って、オメガにも抑制剤を打った。  オメガは目を閉じ眠った。   今はもう何も考えずにすむように。  外ではアルファ同士の争いが始まっていた。  彼らのオメガはもう、彼らのものであることを拒否したことも知らずに。  少年は楽しく待つことにした。    どちらが勝つにしても。    殺す。    

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