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第42話

 双頭はその4つの腕で千里眼を押さえこみ、その歯で喉の肉ごと血管を裂く、はずだった。  だが、彼らの腕は何も掴まなかった。  有り得なかった。  あの速度で動いたのに。  アルファとはいえ、人間タイプの身体しかもたない千里眼が、スピードで相当を上回れるはずがなかった。  だが。  実際、千里眼は双頭の腕と牙をよけていた。  僅かな距離で。    ドカン  ドシュッ  双頭の腕は空を切り、勢いあまってコンクリートの地面を破壊しただけだつた。  破片が飛び散る。  でも、千里眼の肉体に届いていない。    有り得ない  有り得ない  双頭は当惑しながらも、怒り狂った。  自分達の攻撃を避けたアルファはいない。  また攻撃する。  何度も何度も。  同時に、  時間をずらして、  フェイントをいれて、  だが、それら全てを千里眼は避ける。  おかしい。  おかしい。  千里眼がいくら攻撃を見えていたとしても、その身体の性能では双頭よりも早くも動けるはずがないのだ。  何度目かの攻撃の後、双頭達は思い至る。  ひとつの結論に。  千里眼は。  避けてない。  「そうだ。私はお前達の攻撃を予測している」  千里眼は双頭達の考えを口にしてやった。  千里眼は先に動いていたのだ。    千里眼の目は双頭の攻撃する軌道が全て予測として見えていた。  先に【視える】のだ。  それは見てから避けるより速く動けることを意味していた。     千里眼は、未来さえ視ていた。  視えるのだ。  双頭が攻撃しようとした瞬間、双頭の一体の目に千里眼の右手が突き刺さった。  動く前に位置を予測されて攻撃したのだ。  アルファの眼球は数少ない弱点の一つだ。  目を刺されたのは長い髪の方の頭だった。  悲鳴を上げる。  その千里眼に向かってもう半分の双頭が怒り攻撃してきたが、全て予測されていた。  千里眼は数秒先の未来に生きているのだ。  千里眼はその特殊な目と、見たものからの行動の判断が、凄まじく速く処理できる脳を持っていた。  「私は、お前達のようにただ、先祖帰りしただけのアルファとは違う。目と脳を進化させた、優秀なアルファなのだよ」  千里眼はえぐり出した双頭の眼球を指に突き刺したまま言った。  双頭の眼球は鮮やかな緑の虹彩を、千里眼のオレンジの指で貫かれていた。  それを。  その眼球を。  千里眼は喰った。  口に放り込み、かみしめた。  アルファは。  オメガと違う味わいがある  旨い。  千里眼は笑った。  双頭は半身は片目を奪われ、叫んでいた。  もう片方は半身をきずつけられた憎しみに叫んでいた。    でも、   もう。  勝負は確定していた。  前の速度でもとどかなかった千里眼に、傷を負い、目を一つ失った双頭が届くはずがない。  双頭は。    ただ、生まれもった身体の性能だけで戦って、沢山のアルファを倒してきただけだかだ。  千里眼のように己の特性を生かしてたたかう方法を考えてきたわけではない。  千里眼は笑った。    未来が視えた。  もう、視えていた。  双頭を殺す未来が。  より優秀なアルファのみが生き残る。  「殺す!!」  「殺してやる!!」  双頭が喚いた。  でも未来は確定していた。    

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