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第49話

 タクはスーパーで買い物をしていた。  少年が食べたいと言っていたナスとトマトのグラタンを作ろう。  花が好きなウインナーと粒マスタードも買っておこう。  ようやく食費を入れることを理解したらしく、少年はタクにお金を渡すようになったが、食費どころじゃない束を渡されてしまって、返した。  金がないので最低限は貰ってしまっているが、金よりも出ていって欲しいのが本音だ。  本当は金も貰いたくない。   でも金がないから仕方ない。   とにかく、できる限り早く出て行って欲しい。  でも、少年の大好物のチーズオムレツをつくるために、チーズと玉子は買ってしまう。  困ってる。  本当に困ってる。  血を吐くほどに困ってる。  早く出て行って欲しい。  でも。  でも。  ものすごく凶暴な猫に好かれたような、嬉しさはある。  いや、アイツは猫より猛獣なんだが。  でも、でも、誰にも懐かない危険な生き物に懐かれるのは。  なんか。    なんだか。  嬉しくて可愛いのだけど、だけど。  花なんかはふつうに可愛いし。  二人で当たり前のようにエロいことされてんのは困るけど。  「相互オナニーだ」と言ってあのオメガ二人が舐めあったり扱きあったり、ディルドを挿れたりしてんのを見るのは、本当に勘弁して欲しい。    毎夜のように少年に襲われるのも。   ・・・そうじゃなくても。  あの二人が自分の家にいるべきじゃないことだけはわかる。  ヤバい。    やばすぎる。    タクは。    ただの。  就職さえまともにできていない、フリーターでしかないのだ。  少年や花を匿うこともできない、何もできない、無力な人間なのだ。    無力な。  何もできない。  本当に何も。    だから。  自分のところになんかいてはダメなのだ。  もっと安全な場所に。  助けられる人間のところに。  少年や花の好物を色々買って、アパートへと帰る。  アパートは色々わけありで、住人はタクしかいない。  だから、少年や花がいて、あれほど、声をあげてセックスしてて(主にタクの声)も怪しまれてないわけなのだ。  ふつうなら、子供二人の出入りとセックスの声で、タクは警察に突き出されているはずだからだ。  タクの近所も取り壊し前の建物だらけで人はいない。  来年にはタクも出て行く予定だ。  地上げ屋によってここは住人が追い出された地区なのだ。  ただ、予定の開発が遅れてしまったのと、タクの部屋に住んでいた人間の行方を何らかの理由でどうしても知りたい家主が、その人当ての郵便物が届いたら知らせる条件で格安で、来年までの契約でこの部屋を借りているのだ。  だから、ここにはそんなに長くいられない。  だから、少年達も、他の隠れ家を見つけるべきだ。  もっと安全な。    ちゃんと守って貰える場所を。  タクはため息をついた。  少年達はアルファを殺してるし、もしかしたらアルファ以外も殺してるかもしれない。  でも。  少年には死んで欲しくはなかった。  少年がワガママで迷惑この上なくても。  笑顔でタクのつくる料理を食べる少年に、死んで欲しくなかった。  「俺が好きだろ」  そう何度も言いながらいつしか眠りにつく少年に。  犯されてるし。  巻き込まれてるし。  でも。  でも・・・。  花は。  可愛い。  ただただ可愛い。  可愛いという点では少年より素直に可愛いと言える。  少年に関しては複雑だ。  複雑過ぎて良くわからない。  意に反し、レイプされたのだ。  流されてる。  流されまくってるけど。    でも。  ふたりとも死んでは欲しくなかった。    でも。  あの二人はアルファを殺してるし・・・  困ってしまうのはタク。         タクにどうにかなるものではなかった。  ため息ついて歩くタクは、ふと大きな影が自分を覆うのがわかった。    誰かが自分の後ろを着けてきていた。  タクは寒気がした。  でも、冷たい汗が流れる。  足音がしなかっただけじゃない。  その影が。  人間ではありえないくらい大きかったからだ。  アルファ。    そうわかった。    人気のない、取り壊し前の建物だらけの場所に。  なんでアルファがいるんだよ。  その理由は。  わかり過ぎた。  少年がらみだと。

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