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第53話

 タクは少年に抱きつかれた。    少年は全身で飛びついてきた。  それどころじゃないのに。  タクは苛立つ。  コイツは。    コイツは何もわかってくれてない!!  何がそんなに嬉しそうななんた!!  「タク・・・タク!!俺のだ・・・俺だけの!!」  少年の顔がある胸のあたりが暖かく濡れた。    少年が泣いてると知って動揺したが、そんなことよりも早く、早く、一瞬でも早く、少年を逃がさないといけなかった。  花だけは、何が起こっているのかわからなくてキョトンとしていた。  「ふざけるな!!さっさと出て行け!!」  タクは怒鳴る。  ああ、組織とやらに連絡できれば、さっさと連れ去ってもらえるのに。  「馬鹿か。離すわけねーだろ。お前が俺を好きなんだぞ!!」  少年に怒鳴りかえされた。  またコイツは。  この期に及んで我が儘を!!!  流石にタクはキレる。  「だから、逃げろといっている!!」  タクは生まれて初めて誰かを殴りつけそうになった。  殴って気絶させて、花にコイツを連れ去ってもらうのだ。  花なら自分より大きな少年を担いで逃げれる。  だがそうしなかったのは、自分の振り上げた拳をどうせ少年は避けるとわかっていたからだ。    少年よりはるかに自分は弱い。  花よりも。  「安心しろ。想定内だ。お前が思っているよりも、俺は考えてる。アイツのことは舐めちゃいねーよ。確かにこんなに早く、居場所を突き止められるとは思ってはいなかった。でも居場所を突き止められること自体は想定内だった。大丈夫だ・・・安心しろ。お前に手は出させねぇ」  少年は笑った。  嬉しくてたまらないような笑顔で。  「アイツが何を考えているのかはイマイチわからねぇし、俺の身体から作られるアルファ殺しの毒はアイツにだけは効かない。だけどな、だけどな、アイツは俺が一番殺さないといけないアルファだ。安心しろ。あれは確かに俺の番だが、殺して殺して殺して完璧に殺して、絶対にお前が俺の過去なんか気にしなくてもいいようにしてやるからな!!・・・忘れるな、俺はこの世でただ一人、アルファ殺しのプロフェッショナルだ!!」  少年はタクの首に抱きつき、無理やりキスをする。    「お前が俺がアイツに奪われるなんて心配をしなくてもいいように、絶対に殺すからな・・・心配すんな、心配すんな!!」  少年はタクの顔のあちこちにキスを繰り返す。  「ちゃんと考えてたんだぞ。もしもアイツに見つかるようなことがあったなら・・・」  少年はいつのまにか片手に何かを持っていた。  それは、スイッチのようにみえた。  何のスイッチだ。  花がそれを見たとたん窓ガラスを割って外に飛び出していった。    ここは二階だが、一切の迷いは花にはなかった。  裸足で、窓ガラスを突き破って飛び降りていった。  何でそのスイッチを見ただけで、花は外へ飛び出したの?  なんで?      タクの頭の中は疑問符でいっぱいだ。  「アイツは俺とお前のことを当然知っている。俺達が愛し合っていることをな。だから、まずお前を殺すなら、俺の前で殺すはずだ。だから、そんなハメになった時のために、ちゃんと用意しておいた。お前だけをころしたりしないようにな。一番最悪なことは、俺はお前をアイツに殺されるのと、俺がアイツの元にもどされることだ。絶対にそんなことはさせない・・・だからだ、準備はしておいた」  少年はものすごい良い笑顔た。    こんな笑顔な少年を見たことない。  しかしタクには、自分達が愛し合っていたなんて事実は知らないし、認めてない。   初めて好きだと認めはしたが、そんな事実は一切なかったはずだ。  そして何の準備だ?  タクを殺させない、自分をつれかえされないようにするためにコイツは何を準備していた?  そのスイッチは何だ?  嫌な予感しかしなかった。  「あんな奴にお前を殺させるくらいなら、お前を俺が殺すし、俺も死ぬ」  あっさり言われて、タクは悲鳴をあげた。    もう大体わかった。   わかったから。  「タク、俺達は絶対に離れない!!死んでもな!!」  少年は叫んでスイッチをおした。  「いやぁぁあぁ」  タクは頭を抱えて叫んだ。  そんな積極的な死に方したくない!!!  爆発音は響いた。  アパートは吹き飛んだ。     そして静かになり  まるで昔からずっとそうだったかのようにな瓦礫の山だけがそこにあった。                

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