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第54話
少年は長い距離をタクを担いで歩いている。
タクは気絶してるがその方が面倒がなくていい。
タクは可愛いが、臆病だしうるさい。
自分の下で鳴いてる時は、いくらでも鳴けばいいが、緊急時には面倒だ。
下水道を自分より大きなタクを担いで少年は難なく歩く。
複雑は下水道の道筋を少年は知りつくしていた。
暗闇だが少年は気にしない。
この街の全てのマップは頭に入っている。
その記憶、それだけで、少年は暗闇を歩ききることができるのだ。
タクだけは知らなかったが、ほぼ空き家だったあのアパートはタクが留守の間に改造しておいた。
スイッチ一つで下水道まで落ちる落とし戸を作っておいたし、アパートのあちこちと、近辺の空き家にも爆弾をしかけておいた。
下水道にたどりついたら、すぐにアパートやその周りが爆発するシステムだ。
この辺はタクぐらいしか住んでないから、まあ、周辺全部爆発させても、大丈夫だろ、無関係な奴で死んだやつはいないだろ、多分。
など少年は確信なく思うが、あまり気にしてない。
もしも少年にわからないようにしかけられていた監視カメラや、隠れて見張っていた連中がいたとしたら。
全部爆破で吹き飛んだはずだ。
これで。
また俺は奴から行方不明になったわけだ。
少年は不敵に笑う
アルファが自分に近づくまでに気付ける自信はある。
捕まるとしたらタクで、ならばあのアルファはタクを少年とタクが暮らしたあの愛の巣で少年の目の前で犯して殺すだろう。
アルファはそういう生き物だ。
絶対に許さない。
その点では少年とも気が合う。
少年も絶対に許さないからだ。
そうなる前に逃げるつもりだったし、それもムリなら、タクを殺して死ぬつもりだった。
タクの家に来て、タクがみている映画や漫画で少年はタクへの想いが何なのかを理解した。
【愛】だ。
愛以外の何がある。
タクと自分は愛してあっているのだ。
離れてはいけない。
タクの母親が置いていった古い恋愛映画が少年の教科書だった。
タクは色々素直になれなかいが、自分達は愛し合っているのだ。
決して俺はタクを手放してはいけないのだ。
そして、タクはどんなに泣いても俺についてくるのだ。
タクの母親が好きな、傲慢で万能なヒーローと、素直になれない懸命ヒロイン的なシュチュエーションがどうやら少年には刺さったらしい。
都合よく自分達の関係も迷いなく書き換えていた。
少年にとっては大した問題ではない。
何故なら。
タクは少年を好きだと言ったのだから。
だから、もう、タクは家族や友人を捨ててまて俺について来てくれるのだ。
それに少年は痛く感動していた。
そういうことに勝手にして。
少年には(何度でも言うが)事実等は大した問題ではないのだ。
前方に光が差し込む。
上からスポットライトのように。
たどり着いたのだ。
少年は壁に取り付けられた鉄の昇降口を登って、下水道から出て行く。
上からはマンホールが取り除かれ、光が差し込んでくる。
予定通り、マンホールを開けてくれているのだ。
誰が?
決まっている。
タクを担いで出てきた少年に向かって微笑んだのは花だった
「予定通りだね・・・」
花は売れそうにタクを担いだままの少年に抱きついた。
花は血まみれだ。
ガラスで切った傷や腕や脚にあるが、オメガの治癒力は高い。
一週間もたたないうちに跡すらのこらないだろう。
「迎えは?」
花の頭を撫でながら少年は言う。
花は賢い。
ちゃんと教えた通りに逃げて、教えた通りの手順でここまで来たのは間違いない。
だから、その途中に組織への連絡はしているはずだ。
「もうすぐ来ます」
花の言葉とおり、建物の隙間にいる二人の前に車が止まる。
「ソイツも連れていくのか・・・」
車の窓が下がり、ため息をつきながら【医者】が言った。
「当然だ。俺の【運命】だぞコイツは」
少年は花にドアをあけさせ、後部座席にタクを担いだまま乗り込む。
花は助手席に慌てて乗り込む。
「【運命】ねぇ・・・」
医者はそういうしかなかった。
医者も少年が古い恋愛映画にハマっているのは知ってるのだ。
運命の絆でヒーローとヒロインは結ばれているのだ。
どうしようもなく惹かれあい、離れられないのだ。
「可哀想に」
医者は聞こえないように言ったので、少年には聞こえなかった。
少年はしあわせそうにタクの頭を抱えて、何度も何度もキスをしていた。
「運命だから離さない」
そう囁きながら。
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