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第60話

 「良かったな。死ななくて」  【医者】と名乗った男は笑った。  本当の医者ではないらしいが、医療の訓練は受けているらしく、点滴の量を調整する。  タクは死にかけていた。  病名があるとしたら、やり過ぎだ。  少年にカラカラになるまでしぼりとられたのだ。  「これにこりたら簡単に『好き』なんか言わないことだ。アイツは自惚れが強いから君が自分に惚れきっているてと信じて疑わないからな、冷たくしてる位で丁度いい。調子にのせると殺されるぞ」  医者の言葉に、それでもタクは首をふった。  「・・・簡単に好きだと言って殺されないようにするのは同意するけど、自惚れってのはどうかな・・・。自信がホントはないから箍が外れるんじゃないすか」  タクはカサカサの唇を開いて呻くように言う。  殺されかかったし、止めてくれと頼んだのに止めなかったことは許せないが、少年の満面の笑顔は。  あんな顔するとは。  「好き」と言われただけで。  「あいつのあの思い込みのはげしさや事実の都合の良い改竄も全部自信の無さからだと?」  医者は面白そうに聞いてきた。  少年の病的なストーカーぶりを知っているらしい。  止めてくれたら良かったのに。  そう心から思った。  「いや、アイツはもともとおかしいのは間違いないです。あの思い込みの強さと現実を絶対みとめないのは、ただのワガママからに決まってます」  タクは言い切り、医者はそれに何度も何度も頷いたので、タクは思った。  あ、この人、めちゃくちゃアイツに迷惑かけられてるんだな、と。  ぶっちゃけ、タクは少年を心の中でサイコパスと呼んでいた。  だって殺すの平気だし。  すぐ無理やりしてくるし。  人を利用するし。  いや、サイコパス決定でしょ!!!  タクはそう思う。  それで間違いないと。  「でも、『好き』なわけね」  医者はふしぎな生き物をみる目でタクを見る。  タクは。  そこは否定できなかったし、タク自身も自分がおかしいと思っていた。  セックスがいいだけの問題ではない。  いや、セックスはいい。  すごい。   おかしくなりそうだ。  だが、すごすぎて逃げたいのだ  全力で逃げて、なんなら、自分の性器を切り落としてしまいたい。  あんな思考を奪われるようなセックスはダメだ。  でも、それと少年を「好き」という気持ちは別なのだ。  「その理由がわかんないんですけどね」  タクはため息をつく。  「しばらくはアイツ部屋の中に入れないから、のんびりしてて。中に入れろと暴れるのを君の身体のためにならないと言ったら大人しくなってるから。ドアの外で膝抱えて座ってるけど」  医者の言葉にタクは頭をかかえる。  そういうの。    そういうの。    部屋の外で泣きそうになりながら膝抱えているとか。  そういうの、そういうとこ。  イラついた。  腹が立った。  自分に、だ。  「・・・入れてやって下さい。ただし、身体に触らない条件で」  そう言ってしまう自分が。    その複雑さ。  この納得のいかなさ  それでも、触らないという条件を無視して部屋に飛び込んできた少年が自分に抱きついてきたのをタクは抱きしめてしまうのだった。    少年が泣いてるから。  泣かせたくはないから。  少年は。  少年は。  泣いてるよりは、傲慢なサイコパスでいてほしかった。    自分が一番狂ってると思ったし、医者もそう思っているのもわかった。  虫でも見るような目でタクをみてきた。  「なんでだよ!!」  タクは愚痴った。  

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