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第63話
少年は携帯で呼び出したボディガードに命じて花を居間に運ばせた。
花はボディガードに抱えられてソファにそっと横たえられる。
6才位の小さな男の子もどこからか現れてきて、花やボディガード、そして男の子の周りをはしゃぎながら走り回る。
かと思ったら、
「誰?誰なの?お姉ちゃん、綺麗ね、可愛いね」
ソファに横たわる花をうっとり見つめて言ってくる。
その無遠慮さがかわいくて、花は微笑んでしまった。
「失礼だぞ、お前は出ていけ」
少年に怒られたが、男の子は出て行こうとはしない。
二人は良く似ていたから兄弟だとわかった。
「お茶をここに持ってくるよう頼んでくれる?」
少年はボディガードに頼む。
携帯を持ってるのに、と花は思う。
ボディガードを呼び出して、門を開けさせた時みたいに誰かを呼べばいいのに。
ボディガードは少し躊躇したが、花を見てから、少年と男の子を置いて出て行った。
こんな少女は脅威じゃないと思ったのだろう。
「外から人が来たら僕達から離れないんた。息が詰まる」
少年はぼやいた。
そして、ソファーの前ある、一人掛けの布張りの椅子にすわる。
「ウチの車はセキュリティーの問題があるから使えないけど、タクシーを呼ぶよ。家まで送る」
少年は言った。
ひどく大人びていた。
「綺麗だね、結婚してくれる?」
小さな男の子にまん丸な目でみつめられ、唐突にプロポーズされたので花は笑ってしまった。
「結婚なんかしたくないの」
花は心から言った。
閉じ込められてたまるか。
せっかく籠から出れたのに。
「わかるよ」
ポツンと少年が言ったので花はちょっとビックリした。
こういう家の子がそんなことを言うなんて。
アルファとオメガの子供が。
ベータの中では最上層の階級にいるこの少年の地位は、アルファとオメガの婚姻関係があってこそのものなのだ。
驚いたのを気付かれてしまったが、それは構わない。
誰でも驚くはずだろうからだ。
特権階級が保守的なことの方が多いのだから。
小さな男の子が花の膝にのぼってきた。
「こら!!トキ!!」
少年は怒ったが、花は笑顔で大丈夫だと示す。
花は小さな男の子を抱きしめた。
センターでも、小さなオメガを抱きしめていた。
年齢ごとに分けられて暮らし、他の年齢のオメガと会うことはあまりなかったけれど、会えたなら小さな子達を抱きしめた。
多分。
求められることと与えられることが心地よかったのだと思う。
「お母さんになってくれる?」
男の子が嬉しそうに抱きつきながら言ってくる。
「それは嫌」
花はそこも正直に答える。
犯され閉じ込められ、子供を産むだけのものにされてたまるか。
いや、でも。
しかし。
「お母さん、いるでしょう?」
この館の持ち主 、【白面のアルファ】には番がいるはずだ。
公式の場にも出さず寵愛していると噂されてるオメガが。
「お母さん・・・見たことない」
男の子は無邪気に言った。
「え?」
花は綺麗な目を見開いた。
「可愛いねぇ、お姉ちゃん」
また男の子がうっとり言った
「トキ!!」
困ったように少年が言った。
ぬいぐるみでも抱くように花は男の子、トキを抱きしめた。
あたたかい。
可愛い。
「僕はタキ」
少年が言った。
照れたように、早口で。
「私は花」
花も笑顔で答える。
ちゃんと「私」という。
少女の方が都合がいい。
アルファをころして回っているオメガは少年のようだとアルファ達もわかっているからこそ。
「あの。あの」
少年は口ごもった。
花は面白そうに笑う。
大体わかってる。
ベータはオメガの魅力に弱い。
こんな子供でも。
「友達になってくれる?」
少年の申し出は直球だった。
「・・・いいわよ」
花はマセた少女のようにこたえた。
マセてるどころの話ではないし、花はもう子供ではないのだけれど。
オメガは子供ではいられないから。
見計らったようにメイドによりお茶が運ばれ、メイドと一緒に戻ってきたボディガードに花は家の住所や父親や母親について聞かれた。
「失礼だぞ、サイトウ!!」
少年は怒ったが、そこはボディガードは譲らなかった。
花は住所と【両親】の名前を言う。
長くこの国を離れていて、先月帰ってきたファミリーだ。
経歴は完璧。
それなりに上流階級。
少年の友達として問題ないとされるはずだ。
花はちゃんと都内の私立の女子校に転入して先週から通っている。
「どうしてこの辺に?」
ボディガードのサイトウは訊問を続ける。
高級住宅街だ。
用もなく通ることはない。
「この先の○○さんの家に行くつもりだったの」
その家の娘は花の学校に通っている上級生だ。
花はもう彼女を落としている。
上級生は花に休み時間と放課後にと、もう何度も抱かれている。
疑似性器まで使って色々教え込んでいる。
花を鳴かせるつもりで、花に近づいた上級生は、今では毎日花の下で鳴いている。
花は女性とするのも悪くないと思ってる。
とにかく花が上級生お気に入りの下級生となっているのは調べたらわかる。
「なぜ、歩いて?」
上流階級の少女は歩いて移動しない。
送り迎えは当たり前だ。
なかなか訊問は厳しい
「猫が。この前この辺りで猫を見かけたから。いるかなって思って、車を下ろしてもらったの」
3日前に上級生の家を訪ねている。
花は上級生の部屋でたっぷり彼女を鳴かせて、快楽を教え込んだのだ。
訪ねたことをちゃんとボディガードは調べるだろう。
だから猫を見かけたことも疑わないだろう。
今日訪ねることになっていることも口裏を上級生にあわせさせている。
上級生は今は花のためなら何でもする。
花は上級生を可愛いと思っていた。
ベータはみんな可愛い。
アルファと違って大好き。
「家までお送りします」
サイトウが言った。
サイトウは車椅子を持ってきていた。
それにのって、花は門の外のタクシーへと向かう。
サイトウは花の家に連絡も入れたはずだ。
全ては準備が整っている。
問題ない。
「また、来てくれる?」
少年、タキがはずかしそうに言った。
「または来てね」
トキが手を振る。
「またくるね」
花は笑顔で手を振った。
タクシーの後部座席に座るのをサイトウが手伝ってくれた。
本当はこの男をおとすはずだったが、タキを新しいターゲットにした以上、サイトウにこちらに不必要な関心を持たせない方がいいと花は判断して、無邪気な子供のようにふるまった。
タクシーが走り出す。
兄弟はずっと手を振っていた。
花もずっと振り返す。
そして、二人が見えなくなると、少年、花の大好きなお兄ちゃんにメールを打った。
「成功」
それだけ。
花はご機嫌だった。
白面のアルファを殺す準備は整いつつある。
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